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氷河上で生きる微生物ー初めての氷河調査

若手人材海外派遣プログラム参加者:2022年度第1回短期派遣
小林 綺乃(千葉大学)

私は、ArCS II若手人材海外派遣プログラムで、アメリカ・アラスカのグルカナ氷河に行きました(写真1)。ここは、私が研究対象としている氷河ですが、今回が初めての氷河での調査となりました。

(写真1)今回調査を行ったアラスカ、グルカナ氷河

私の研究テーマは、「氷河の融解を抑制する可能性をもつツボカビ」です。氷河上では、暗色の色素をもつ雪氷藻類と呼ばれる微生物が繁殖することで氷河が暗色化し、日射を吸収するため氷河の融解が加速しています。この藻類に寄生し、氷河の暗色化を抑えると考えられるのが「ツボカビ」と呼ばれる菌類です。もともと、カエルツボカビ症などで知られるツボカビは、種の絶滅を引き起こすほどの影響力があることで知られており、氷河上のツボカビは地球環境にとって重要な微生物となる可能性があります。しかし、この氷河ツボカビの研究はほとんど進んでいません。雪氷藻類へのツボカビ感染拡大の要因を解明するためのサンプリング・実験を行うことが、調査の目的です。

実際に氷河に行くと、これまで写真でしか見たことがなかった氷河の暗色化(写真2)やクリオコナイトホール(氷河の融解水が溜まる小さな穴)を初めて見ることができました。氷河には大小の水流が流れ、所々ゴツゴツとした風化氷もあり、ただの「氷の河」ではなく、標高によってもその氷河の表情が変化していました。さらに、ゴマほどのサイズのトビムシも氷河上でピョンピョンと飛び跳ね、このような寒い環境でも生物が活動していることを実感しました。日本に戻り顕微鏡で採ったサンプルを覗いてみると、これまで観察できなかった形態をもつツボカビも発見することができました。

(写真2)氷河の氷表面上における雪氷藻類による暗色化の様子

氷河での初めての調査は慣れないことも多くありましたが、「なぜクリオコナイトホールの分布が一様でないのか」、「こんなサンプリングをやったら面白そう」など、実際に氷河に行くことで疑問やアイデアが浮かびました。ツボカビ感染拡大の要因解明、そしてツボカビの氷河融解抑制への寄与を明らかにするため、今後も研究を続けていこうと思います。

調査で支えてくれた皆様、指導教員の竹内先生、ArCS II関係者の皆様、ご指導およびご支援いただきありがとうございました。

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