2021年2月22日(月)、南極観測船「しらせ」が横須賀港に入港し、第61次南極地域観測隊(越冬隊)28名、第62次南極地域観測隊(夏隊)13名が無事に南極での任務を終えて帰国しました。
このページでは第61次南極地域観測隊の越冬期間(2020年2月~2021年1月)と第62次南極地域観測隊の夏期間(2020年11月~2021年2月)で実施された活動の概要および活動成果トピックスをご紹介します。

活動成果トピックス一覧

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対流圏・成層圏・中間圏の大気精密観測の実施
①大型大気レーダー国際協同観測(ICSOM-6)
②ミリ波分光放射計によるオゾン・NO・CO同時連続観測
内陸旅行及び昭和基地周辺での活動
①みずほ旅行
・雪尺網を使った年間堆積量の観測
・H128の自動気象観測装置(AWS)の更新
・無人磁力計データの回収
②シート橇走行試験
過去5年間で最大級のオゾンホール出現を確認 輸送
①全量輸送(貨油輸送/氷上輸送/空輸)と過去最大規模の廃棄物持ち帰りを達成
②「しらせ」搭載ヘリによる燃料ドラム缶の“とっつき岬”への空輸及び集積作業
降水レーダーを用いた昭和基地付近の降水量の通年観測を開始 設営
①環境科学棟と観測倉庫の解体
③荒金ダム配管工事
南極移動基地ユニットの実証実験を実施 環境保全
①廃棄物埋め立て地の汚染拡散防止対策の実施
②夏期隊員宿舎汚水処理設備の更新
基本観測棟の本格運用
①電離層観測
②高層気象観測
③潮汐観測
COVID-19対策
対流圏・成層圏・中間圏の大気精密観測の実施
①大型大気レーダー国際協同観測(ICSOM-6)
②ミリ波分光放射計によるオゾン・NO・CO同時連続観測
過去5年間で最大級のオゾンホール出現を確認
降水レーダーを用いた昭和基地付近の降水量の通年観測を開始
南極移動基地ユニットの実証実験を実施
基本観測棟の本格運用
①電離層観測
②高層気象観測
③潮汐観測
内陸旅行及び昭和基地周辺での活動
①みずほ旅行
・雪尺網を使った年間堆積量の観測
・H128の自動気象観測装置(AWS)の更新
・無人磁力計データの回収
②シート橇走行試験
輸送
①全量輸送(貨油輸送/氷上輸送/空輸)と過去最大規模の廃棄物持ち帰りを達成
②「しらせ」搭載ヘリによる燃料ドラム缶の“とっつき岬”への空輸及び集積作業
設営
①環境科学棟と観測倉庫の解体
③荒金ダム配管工事
環境保全
①廃棄物埋め立て地の汚染拡散防止対策の実施
②夏期隊員宿舎汚水処理設備の更新
COVID-19対策

対流圏・成層圏・中間圏の大気精密観測の実施

地球の気候は、地球全体をめぐる大気の流れ(大気大循環)によって決まっています。しかし、南極や中間圏(概ね高度50~90km)の大きな大気の流れは観測が難しく、気候の将来予測において課題となっています。昭和基地の大型大気レーダー(PANSY:Program of the Antarctic Syowa MST/IS Radar)を中心に、電波や光を使って昭和基地上空の風や温度、物質分布を測定する様々な観測装置を組み合わせることで、大気重力波(大気中の浮力を復元力とする大気の主要な波)が大気大循環を作り出すのに果たす役割を明らかにすることを目指し、観測を行っています。

①大型大気レーダー国際協同観測(ICSOM-6)

2021年1月に北極成層圏で気温が数日で50℃以上上昇する成層圏突然昇温現象が発生。この気象イベントに対する全地球大気の応答を調べるため、2020年12月30日から2021年1月20日まで、大型大気レーダー国際協同観測(ICSOM-6:Interhemispheric Coupling Study by Observations and Modeling)を日本のプロジェクトチームが主導しました。昭和基地の大型大気レーダー(PANSY)観測では、ほぼ連続した良好な中間圏観測データの取得に成功。これにより中間圏のダイナミクスを解明し、気候予測のリードタイムを伸ばすことに貢献することが期待されます。

※リードタイムとは、もともと防災分野において、警報・注意報を出してから災害が発生するまでの時間(猶予時間)を指します。つまり、リードタイムが長いほど災害時には避難等災害に備える時間が長くなります。気象予報や気候将来予測の分野においては、予測初期時刻から予測対象期間までの期間(予測時間)を指します。『気象予測のリードタイムを伸ばす』ということは、長期の気候予報の精度向上を意味します。

昭和基地の大型大気レーダーPANSY

大型大気レーダー国際共同観測網

②ミリ波分光放射計によるオゾン・NO・CO同時連続観測

新開発した周波数マルチプレクサを用いて、ミリ波分光放射計の受信チャンネル数を4つに増やし、光化学・輸送過程を通じて大気の流れに影響を及ぼすオゾン・一酸化窒素(NO)・一酸化炭素(CO)を同時かつ連続的に観測できるよう改良を行いました。これらの分子は、光化学・輸送過程を通じて相互作用し、温度にも影響することから、高エネルギー荷電粒子降り込みの影響解明にも役立つと期待されています。

4チャンネル化による同時観測の原理を示した図

多チャンネル化されたミリ波装置

4チャンネル化による同時観測の原理を示した図

多チャンネル化されたミリ波装置

過去5年間で最大級のオゾンホール出現を確認

昭和基地でのオゾンホールの観測は、気象庁が1974年から行っています。オゾンホールは、南極上空のオゾン量が極端に少なくなる現象で、南半球の冬季から春季にあたる8~9月ごろ発生、急速に発達し、11~12月ごろに消滅するという季節変化をしており、1980年代初めからこのような現象が観測されています。

2020年の南極オゾンホール

昭和基地(図1中の印)のオゾンゾンデ観測では、2020年9月に昭和基地上空の顕著なオゾン層破壊が観測されました(図2)。2020年の南極オゾンホールの面積は、最近10年間の平均値より拡大する方向に推移し、その最大面積は、南極大陸の約1.8倍(2460万km2)でした。また、2008年に並び観測史上最も遅い消滅日(12月28日)を記録しました。

図1:オゾン全量南半球分布図(2020年9月20日)図中の印は昭和基地の位置(南緯69度、東経39度付近)。米国航空宇宙局(NASA)提供の衛星観測データ(OMPSデータ)をもとに気象庁が作成。(気象庁HPより)

図2:2020年9月に昭和基地で観測された月平均オゾン分圧高度分布グラフ。破線はオゾンホールが明瞭に現れる以前の月平均値。(気象庁HPより)

オゾンホールの今後の傾向

長期的には、南極のオゾンホールは縮小傾向であるものの、今後も継続した観測が必要とされています。

昭和基地でのオゾンゾンデ観測の様子

降水レーダーを用いた昭和基地付近の降水量の通年観測を開始

昭和基地付近の降水量および降水雲やブリザードの変動、変化を明らかにするため、昭和基地に降水レーダーを設置し、降雪現象のレーダー観測を開始しました。

2020年12月30日に降水レーダーを格納するレドーム(直径6.1m高さ3.7m)建設のための基礎工事を始め、年が明けた1月14日にはレドーム本体の組立てがほぼ完了。その後、レーダー2台の組立て、動力回転試験を行い、導波管や信号線の接続を経て1月末からレーダーの送受信テストを開始しました。

この降水レーダーは、水平回転・鉛直回転の2つのレーダーを同時に使用するので、雲の立体的な構造を知ることができ、地吹雪、ブリザードなどの風を伴う現象の発生から消滅までの構造の変化を知ることが期待されています。

今後、降雪現象に合わせて連続稼働させ、本格的にレーダーデータを取得していきます。

降水レーダーが格納されたレドーム

取得されるレーダー画像の一例。図の中心がレーダーサイト。円は1NM(1852m毎)。昭和基地の西側や北側にある氷山群が地形エコーとして検出されています。

降水レーダーのイラスト。半径5km以内の降雪粒子をとらえます。

南極移動基地ユニットの実証実験を実施

南極移動基地ユニット(AMSU:Antarctica Mobile Station Unit)は、宇宙航空研究開発機構、ミサワホーム株式会社、株式会社ミサワホーム総合研究所、国立極地研究所の4者が取り組む共同研究「持続可能な新たな住宅システムの構築」に基づいて製作された居住ユニットです。

このAMSUを南極に持ち込み、越冬期間中に、ソリに載せられた2つの居住ユニットを連結して1つの基地ユニットに組み上げ、(1)構造物の柔軟な拡張・縮小の検証、(2)エネルギー利用の最適化の検証、(3)センサーを用いたモニタリングの検証の実証実験を行ないました。

実証実験は63次隊でも継続し、実証実験終了後はAMSUを標高3800mの南極内陸のドームふじに輸送し、第3期ドームふじ氷床深層掘削計画の居住空間(最大18名)としての利用を計画しています。

また、共同研究の成果を応用し、地上における未来志向の住宅や、宇宙における月面の有人拠点への応用も期待されています。

AMSU実証実験準備の様子。
太陽光で発電・集熱して暖房に使用するため外観は黒色にデザインされました。

ユニット2台の連結作業

完成したAMSU前での記念写真(2020年5月21日撮影)

基本観測棟の本格運用

基本観測棟は、昭和基地で老朽化した観測系の建物4棟(気象棟・環境科学棟・地学棟・電離層棟)の機能を統合し、気象・生物・地学・電離層の各観測部門が共同で使用できるよう建設され、60次隊の越冬期間終盤(2019年12月2日)より気象部門観測の一部が運用を開始していました。61次隊では、基本観測棟に高層気象観測を行うための放球デッキが建設され、これまで気象観測を行っていた気象棟の機能を完全に基本観測棟に移転し、本格運用を開始しました。さらに、62次隊では、電離棟に置かれていた電離層観測の機能と地学棟に置かれていた潮汐観測の機能を基本観測棟へ移動しました。

昭和基地電離層棟に設置していた「銀座郵便局昭和基地内分室」も基本観測棟に移設しました

①電離層観測(情報通信研究機構)

電離層観測部門では、62次隊の夏作業において電離層棟に設置してあったデータ転送サーバを基本観測棟に移設し、新規にテスト用GNSS衛星電波シンチレーション観測機を設置し運用を開始しました。

基本観測棟の電離層観測エリア

データ転送サーバ

基本観測棟屋上に設置された
GNSS衛星電波シンチレーション観測用アンテナ

②高層気象観測(気象庁)

高層気象観測を基本観測棟で行うために放球デッキが建設され、本格的に運用を開始しました。

放球棟での放球
(基本観測棟への引っ越し前)

放球棟で放球を行っていた時は、強風時に建物を出た途端に風に煽られて気球が右往左往してしまい、隊員が気球を持ったまま維持することにかなりの労力が必要でした。また、デッキの上を走りながら放球しないとゾンデが地面に激突して破損してしまい、観測停止となることもあり、危険を伴いました。

2019年3月6日15:00、風速15.2m/sでの放球棟での放球の様子

基本観測棟放球デッキでの放球
(基本観測棟への引っ越し後)

基本観測棟の風下側に建設された放球デッキでは、直上に強風が吹きこむことがなく、デッキの端まで行かない限り気球が風の影響を大きく受けることはなくなりました。また、放球直後は地面に落下することなく数メートルは真上に上昇し、その後は風に乗って放球棟からの放球と同様に真横へ飛んでいきます。新しい放球デッキの利用により、高層気象観測は格段に安全かつスムーズに観測が行えるようになりました。

2021年2月16日 15:00、風速16.7m/sでの基本観測棟放球デッキでの放球の様子

③潮汐観測(海上保安庁)

西の浦の海底に設置された水位計での潮汐観測は12次隊(1971年)から継続して実施されており、測定された潮位データは潮位観測装置を介して日本国内に伝送され、海上保安庁ウェブサイトにてリアルタイムで公開されています。62次隊では、これまで地学棟に設置されていた潮位観測装置を廃止し、2020年12月23日に基本観測棟へ新たな潮位観測装置を設置し、運用を開始しました。

潮位観測装置の新たな設置

これまでは記録紙へのアナログ記録も行っていましたが、全てがデジタル記録へと変わり、紙交換が不要となったことで隊員の負担軽減に繋がりました。現在も良好にデータ取得中です。

昭和基地での潮汐観測概要図

搬入作業の様子。基本観測棟の2階にクレーンを使って搬入しました。

配線作業の様子。不具合がでないよう丁寧に配線作業を実施しました。

新しい潮位観測装置

 

内陸旅行及び昭和基地周辺での活動

①みずほ旅行

現在南極全体では氷床質量の減少が海水準上昇に作用していますが、東南極はそれを緩和しています。東南極における今後の温暖化の兆候をいち早く捉えるなど、将来に渡ってこの地域をモニタする意義は高く、重要です。また、南極大陸内に広域のオーロラ観測ネットワークの構築にも力を入れています。

2020年10月6日から24日までの19日間、61次隊の7名によって、内陸用大型雪上車(SM100S)4台でみずほ基地までの内陸旅行を実施しました。この旅行の主な目的は、気象・宙空圏・気水圏部門の観測と、ルート整備および63次隊以降で計画されているドームふじでの氷床深層掘削に向けた燃料の集積です。旅行中は厳しい天候となる日もありましたが、概ね計画通りに目的を達成することができました。

みずほ旅行中のキャンプサイト

雪尺網を使った年間堆積量の観測

南極大陸は膨大な氷(氷床)でおおわれており、その質量の増減(質量収支)を明らかにすることで、将来の地球規模気候変動や海水準変動の予測に役立ちます。この質量収支の一つの要素が氷床表面の質量収支であり、この観測データを長期的に蓄積することにより、気候変動との関連がより明確になります。

1990年代から現在まで、観測隊では氷床上に設置された雪尺網を使った年間堆積量の観測を継続しており、南極における長期の堆積量に関して世界で唯一の実測データを供給し続けています。現在では、気候モデルの検証をはじめ、南極の長期変化を議論する上で世界中から必ず参照されるデータとなっています。

2020年10月15日101本雪尺列観測を実施しました。この観測では、雪面に設置した竹棒の雪面からの高さを測定します。前年との差を取ることによって、その期間(通常は1年間)に積もった雪の量を得ることができ、雪の密度を考慮することによって、年間に蓄えられた水の量に換算することができます。雪尺はルート沿いに2km毎に設置し、特定の場所には数十本の雪尺を設置しています。

みずほ基地に設置した101本の雪尺

積雪サンプリングは、降雪の仕組みやその長期変動の解明を目的として、積雪に含まれる化学成分等を分析するために行います

H128の自動気象観測装置(AWS)の更新

観測隊では、南極の氷床上に自動気象観測装置(AWS:Automatic Weather Station)網を整備し、東南極の氷床変動のモニタリングを行っています。

AWSは、積雪による年々の雪面上昇に対応するために、定期的に測器の位置を上昇させる必要があります。61次隊ではみずほ旅行中に、H128地点のAWSの測器を移設し、観測データの保全を行いました。

AWSが観測したデータはリアルタイムで世界に発信されており、国際的にも貴重なデータです。この観測は、数十年間の継続を目指しており、東南極の氷床の変化をいち早く検出し、そのメカニズムを明らかしようとしています。

みずほ基地のインターバルカメラ

H128地点のAWS更新の様子

H128地点のAWS更新の様子

無人磁力計データの回収

2020年10月15日にみずほ基地の宙空圏無人磁力計のデータ回収を実施しました。H68の宙空圏無人磁力計の保守は復路の10月23日に外観の確認のみ実施しました。

無人磁力計は昭和基地や南極大陸の複数地点に設置しており、得られたデータを外国基地と共有することで、南極大陸内に広域のオーロラ観測ネットワークを構築しています。オーロラ現象の時空間変動の観測を行うことを目的として実施しています。

みずほ基地無人磁力計保守の様子

みずほ基地無人磁力計

H68無人磁力計

②シート橇⾛⾏試験

内陸での観測活動を行ううえで、いかに効率よく燃料を供給するかということは、南極での厳しい環境において重要です。これまで木製の橇を主に使用してきましたが、61次隊では橇の自重が軽いシート橇を試験的に持ち込み、昭和基地沖の海氷上において、雪上車で牽引する際の抵抗データの収集及び走破性・追従性の目視確認を行いました。今後収集したデータ等を国内で分析し、改良を加えたうえで輸送効率の向上を目指します。

シート橇⾛⾏試験の様子

輸送

①全量輸送(貨油輸送/氷上輸送/空輸)と過去最大規模の廃棄物持ち帰りを達成

62次隊の行動において、2020年12月14日に「しらせ」はリュツォ・ホルム湾沖定着氷縁に到着しました。その後、12月19日に昭和基地西方約5マイルからヘリコプターによる昭和基地への空輸を開始し、翌20日から優先的に送り込む物資の空輸を実施。21日には昭和基地沖約350mの多年氷帯に接岸し、海氷上に敷設した燃料輸送用ホースを用いて「しらせ」から昭和基地のタンクに越冬用燃料を送り込みました。また、海氷の安定する夜間を利用して、自走車両3台を含む大型物資の送り込み氷上輸送を実施しました。

送り込み物資輸送終了後は、61次隊の持ち帰り物資の氷上輸送を12月27日まで実施。2021年1月2日から7日まで持ち込み物資の空輸、1月8日から10日まで持ち帰り物資の空輸を行いました。

以上の輸送作業により、国内から運んだ物資すべてを昭和基地に輸送することができ、62次隊の越冬条件を整えることができました。62次隊の持ち込み物資量は1041.5トン、61次隊の持ち帰り物資量は466.5トン(このうち廃棄物は354トン)になりました。持ち帰った廃棄物の量は、これまでの中でも最大規模でした。

海氷上に燃料輸送用のホースを設置して「しらせ」から昭和基地に燃料を送ります

海氷が比較的安定する夜間に大型物資を輸送します

②「しらせ」搭載ヘリによる燃料ドラム缶のとっつき岬への空輸及び集積作業

昭和基地は島に位置しているため、越冬期間中に南極大陸に上陸するためには海氷上を移動し、昭和基地の北方約15kmに位置するとっつき岬で上陸するルートを辿ることになります。近年、とっつき岬手前の海氷上に発達する大きなクラック(海氷の割れ目)の影響で、重量物の輸送に制約が生じています。この問題を解決するため、62次隊では、「しらせ」乗員の協力のもと、ヘリコプターによる燃料ドラム缶の空輸を実施し、とっつき岬に南極低温燃料のドラム缶260本を運ぶことに成功しました。

これにより、62次越冬期間中の大陸への燃料輸送作業が大幅に安全かつ効率的になり、63次隊の夏期間に予定されているドームふじへの物資輸送の準備が大きく前進しました。

ヘリコプターから降ろされたドラム缶を人力で集積場所まで運びます

「しらせ」搭載のヘリコプターでとっつき岬に運ばれた燃料ドラム缶

設営

①環境科学棟と観測倉庫の解体

昭和基地では、基地の更新計画に則り、老朽化した建物の解体工事を順次進めています。
62次隊では、環境科学棟と観測倉庫の解体作業を行ないました。環境科学棟は1974年(15次隊)建設、観測倉庫は1970年(11次隊)建設でどちらも築45年以上が経過しており、安全性の確保と建物の風下側に形成される雪の吹き溜まり軽減の観点から、解体することになりました。

観測倉庫の解体は完了しましたが、環境科学棟は高床上部の建屋のみの解体となり、床と高床基礎部分の解体は63次隊の夏期間に実施する予定です。

環境科学棟解体作業の様子

解体前の観測倉庫(手前)と環境科学棟(奥)

解体後の跡地。環境科学棟の床の撤去は63隊の夏期間に実施予定です。

②荒金ダム配管工事

昭和基地では、窪地の下流側をせき止めて作った人工的な池(荒金ダム)の水を生活水として利用しています。62次隊では、荒金ダムの循環配管及び配管用架台の更新作業を実施しました。荒金ダムには取水ポンプを設置し、そのポンプによって水を発電棟に送り、発電機の排熱で温めた水をダムに戻す方法で循環させて凍結を防いでいます。

今回の工事では、古くなった循環配管と配管を固定するための架台を新たな部材へ更新する作業を行いました。これらの一連の作業は作業量が多く、また、雪と氷の影響により作業に時間を要することから、61次隊から夏期間に作業を進めています。今回は引き続きの作業として一部の配管と架台の更新を行いました。63次隊の夏期間ですべての作業が完了する予定です。

池の取水口に更新した桟橋

排水管敷設作業

環境保全

①廃棄物埋め⽴て地の汚染拡散防⽌対策の実施

昭和基地では、環境保護に関する南極条約議定書締結(1988年1月14日)までは、細かな廃棄物は特に持ち帰らず埋め立てられていました。埋立地の面積は約1374m2、体積は約5496m2です。国立極地研究所では、埋立廃棄物と土壌の処理について検討を重ね、当面は廃棄物と汚染の拡散防止を優先させることを決定しました。62次隊では埋め立て地の海側法面の傾斜を緩和するための作業量の見積もりを行ない、今後の処理工程作成に当たってのデータを収集しました。作業中に掘削した廃棄物は、梱包、保管のうえ、翌年国内に持ち帰ったうえで処理を行ないます。

埋め立て地の海側法面の傾斜緩和作業

掘削した廃棄物は集積して翌年国内に持ち帰る予定です

②夏期隊員宿舎汚水処理設備の更新

夏期間に新たに昭和基地入りした観測隊員が生活する夏期隊員宿舎では、凝集沈殿方式による汚水処理を行なって来ました。しかし、設備の維持に多くの手間がかかることに加え、設備自体の老朽化が進んで来たことから、62次隊では新たに生物分解方式の処理設備を設置しました。この設備は63次隊からの運用になりますが、稼働後は排水の水質の改善、維持管理の手間の軽減が期待されています。

夏期隊員宿舎横に新たに設置した汚水処理設備

COVID-19対策

62次隊は新型コロナウイルスの世界的な感染拡大を受け、『第62次南極地域観測に関する基本的な考え方及び対応方針』を踏まえた『第62次南極地域観測行動計画』を決定し、観測継続に必要な人員の交代と物資輸送を最優先として計画し、その他の観測・設営計画は、特に継続性が必要なものに絞りみました。これにより、東京海洋大学練習船「海鷹丸」や南極航空網を用いた別動隊は編成せず、南極観測船「しらせ」を用いた本隊のみによる行動となり、「しらせ」の行動も、日本の南極地域観測の歴史で初めて、他国に寄港しない計画となりました。

2020年11月20日に「しらせ」は日本を出港し、12月21日に昭和基地へ到着しました。61次隊(越冬隊)と62次隊(夏隊)の復路においても昭和基地から他国に寄港せず、2021年2月22日に日本に無事帰国しました。

62次隊および「しらせ」行動計画