ArCS 北極域研究推進プロジェクト

ArCS通信

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20171120日(月)~22日(水)に北海道大学・低温科学研究所において,研究集会「グリーンランド氷床における近年の質量損失の実態解明―メカニズムの理解と影響評価―」が開催されました。

私は現在、ArCS 若手研究者派遣事業の支援を得て、極域の研究を専門に行うオランダ北部のフローニンゲン大学のArctic Centre に留学しています。30年近くに渡って北極域の渡り鳥の研究を行っている Maarten Loonen 博士の研究室に籍をいただき、共同研究を進めているところです。そしてこの夏、Loonen博士率いるオランダの調査隊に同行させていただき、北緯79度を誇るノルウェー領のスバールバル諸島にあるニーオルスン基地に2ヶ月もの期間に渡って滞在しました。

ArCS国際共同研究推進メニューのテーマ1では、海洋地球研究船「みらい」の北極航海(MR17-05)において、9月を中心に6時間毎のラジオゾンデ観測をチャクチ海で実施しました(図1、2)。この観測は世界気象機関(WMO)が実施する国際プロジェクトPPP(極域予測プロジェクト)の集中観測期間であるYOPP(極域予測年)の一環として行われ、取得したデータはリアルタイムでGTSと呼ばれる全球通信システムに通報されることにより、PPPが目指す、極域から中緯度の気象予測精度向上に資するものとなります。

ブラックカーボン及びメタンに関する第4回AC専門家会議が2017年10月3、4日にフィンランドのヘルシンキで行われました。アメリカ、カナダ、デンマーク、フィンランド、ノルウェー、スウェーデン、ドイツ、フランス、イタリア、日本、韓国、EU、北極圏アサバスカ評議会(AAC:Arctic Athabaskan Council)、北極圏汚染対策プログラム作業部会(ACAP: Arctic Contaminants Action Program)、北極評議会(Arctic Council)が参加し、日本からは、国立極地研究所の近藤 豊(特任教授)が出席し討議に参加しました。

北極評議会(Arctic Council: AC)の作業部会の一つである北極圏監視評価プログラム作業部会(Arctic Monitoring and Assessment Programme: AMAP)の第31回年次会合が9月12-14日の間、アイスランドのレイキャビックで開催されました。AC正式メンバーである北極圏8カ国(カナダ、デンマーク、フィンランド、アイスランド、ノルウェー、ロシア、アメリカ合衆国)と先住民団体6団体のうち3団体(ICC(イヌイット極域評議会), AAC(北極圏アサバスカ評議会), and Saami Council(サーミ評議会))に加えて、日本をはじめとするオブザーバー国(12カ国中6カ国)や関係団体(PAME, CAFF, IASC, Arctic Economic Council, ICESなど)が参加しました。

私たちはテーマ6の生物多様性課題のもと、7月上旬から8月下旬にかけてカナダ北極サルイットでの陸上生物の多様性調査を行いました。本調査の目的は、北極域に広がるツンドラ地域の植物や微生物の多様性を明らかにすることにあります。

今年から2年間はアメリカが議長国となります。今回はアメリカにとっては議長国となって初めての役員会合でした。議長はU.S. Fish and Wildlife Service(アメリカ合衆国魚類・野生生物局)のCynthia Jacobsonが就任しました。

自然環境を人間との関係から切り離して対象化する「科学(Science)」と、人間が自然環境と密接な係わりを持ち、それに巻き込まれる存在であることを前提とする「Indigenous knowledgeやTraditional Ecological Knowledgeを含む在来知(以下、在来知)」とは、いかにして共存し、協働することができるのだろうか。

上記の問いは、直接的・間接的にかかわらず、近年の北極研究の領域で、頻繁に耳にするようになりました。そもそも、科学と在来知とを二項対立的に捉える思考は、人間と環境の関係をどのように解釈するか、ということと係わります。一方の科学は、人間と環境の関係を二元論的に捉え、還元主義的、客観的、分析的且つ機械論的に理解しようとするのに対して、在来知はそれを一元論的に捉え、全体論的、直感的、経験的且つ精神論的に理解しようとします。もっとも、この対照性は、先行するいくつかの研究で指摘されてきたように、それらが語られ、流通される際に創出された差異に過ぎません。科学に直感を排除する機能が備わっているわけではないし、在来知に分析を拒む意図があるわけでもないからです。ただ、こうした整理は、科学と在来知とを、分析可能な概念として操作化することに貢献する可能性を有しています。