2024年3月21日(木)、第64次南極地域観測隊(越冬隊)、第65次南極地域観測隊(夏隊)は無事に南極での任務を終え、オーストラリアのフリーマントルから空路で帰国しました。

このページでは、第64次南極地域観測隊の越冬期間(2023年2月〜2024年1月)と第65次南極地域観測隊の夏期間(2023年11月〜2024年3月)で実施された活動の概要および活動成果トピックスをご紹介します。

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活動成果トピックス一覧

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昭和基地および昭和基地周辺での活動
東南極氷床変動の復元と急激な氷床融解メカニズムの解明
地上気象観測
潮汐観測
極域の大陸地殻の形成発達と太古代-原生代の地球環境変遷に関する研究
測地観測
大型大気レーダーを中心とした観測展開から探る大気大循環変動
極冠域から探る宇宙環境変動と地球大気への影響
昭和基地におけるPANSYレーダー、HYFLITS気球による大気乱流特性の協調観測
急激な氷床質量損失を駆動する氷河・接地線・棚氷の変動とそのメカニズム
マルチスケールのペンギン行動・環境観測で探る南極沿岸の海洋生態系動態
設営
広報
ドームふじ周辺での活動
最古級のアイスコア取得を目指す第3期ドームふじ深層掘削
設営
「しらせ」船上での活動
東南極の氷床-海氷-海洋相互作用と物質循環の実態解明
「海鷹丸」(別動隊)での活動
基本観測(海洋物理・化学)
東南極の氷床-海氷-海洋相互作用と物質循環の実態解明

昭和基地および昭和基地周辺での活動

東南極氷床変動の復元と急激な氷床融解メカニズムの解明

現在、南極氷床融解の加速が強く危惧されていますが、南極氷床融解のメカニズムには不明な点が多く残されており、将来予測の不確実要素となっています。本プロジェクトでは、南極氷床縁の各所で地層掘削等を実施し、過去の氷床融解および海洋状態を復元することで、氷床融解メカニズムの解明を進めることを目的としています。

65次隊では、リュツォ・ホルム湾とトッテン氷河沖において、グラビティコアラーおよびスミスマッキンタイア採泥器を用いた「しらせ」からの海底堆積物掘削と、ビームトロール・大型ROV・CTDを用いた底生生物調査を実施しました。

また沿岸域では、エクマンバージ採泥器・小型グラビティコアラー・小型ROV・滑走型ドレッジ・海底カメラ等を用いた海氷下底生生物および堆積物調査・トレンチ調査を実施しました。本プロジェクトでは、今後は調査域をさらに広げて研究を進めていきたいと思います。

今回の観測により、海底堆積物コアや底生生物を多数採取できました。これらの試料を日本に持ち帰り、実験室での分析やデータの解析を行うことで、過去の南極氷床の変動を詳細に復元し、南極氷床が急激かつ大規模に融解するメカニズムの解明を進めます。本研究の進展により、近未来の南極氷床融解や海水準上昇予測の高精度化につながることが期待されます。

グラビティコアラーによる採泥観測

氷海でのビームトロール観測

トッテン氷河沖の深海で採取したイシサンゴ

リュツォ・ホルム湾の深海で採取したゴカイ

※下記でも詳しく紹介しています
https://www.nipr.ac.jp/antarctic/science-plan10/juuten02.html

地上気象観測

世界気象機関は、「南極及び南洋環境、特に南極氷床の将来の変化に関する理解向上のための観測、サービス及び研究成果の提供」について考慮するよう求めており、極域での降水量の観測が期待されています。しかし、強風が吹くことの多い南極の厳しい環境では、降水の捕捉が難しく、昭和基地では定常的な降水量観測は行われていませんでした。64次隊から昭和基地において、降水量の継続した観測を目指した試験観測を実施しています。

64次越冬隊では試験的に雨量計(日本国内のアメダスと同じ雨量計)を設置し、約1年間観測を継続することができました。さらに65次隊ではより正確な降水量観測を目指して、夏期間に基本観測棟屋上に新たに2種類の観測機器を設置しました。一つは精密な秤を使用した重量測定によって雪や雨の量を観測する「重量式雨量計」、もう一つはレーザーによって降水粒子の大きさ、数、速度等を測定することができる「光学式雨量計」です。これらの測器について正常に観測できることを確認した後、1月上旬から試験観測を開始しています。

64次越冬隊が設置した雨量計では、ブリザードによる降雪時に最大で43.5mmの降水量を観測しました。また、今回設置した観測機器も併せて継続して観測することにより、温暖化による南極氷床の質量変動を理解するための貴重なデータとなるほか、これらの解析結果は、強風時の雨量計の捕捉率の調査や、降雪などの固体降水の自動判別技術の開発といった、日本国内の気象業務への活用も期待されます。

重量式雨量計の設置作業風景

A級ブリザード時の降水量観測データ

※下記でも詳しく紹介しています
https://www.nipr.ac.jp/antarctic/science-plan10/kihon-teijou02.html

潮汐観測

海上保安庁では、海の深さや山の高さの決定並びに津波等の海洋現象研究の基礎資料として重要な、潮汐観測を行っています。65次隊では、昭和基地がある東オングル島の西海岸、西の浦に設置されている験潮所(験潮カブース)の建て替え(老朽代替)作業を実施しました。 験潮所とは、長期にわたり潮汐の観測を実施するための施設です。潮汐は、海中に設置された水位計で観測し、基本観測棟までケーブルで伝送されますが、この建物はその中継点になります。その他、水準測量や副標観測の際の一時的な拠点や観測資機材の保管場所として使用されます。

新しく建て替えた験潮所の場所は、現在設置している験潮所よりも少し陸側の地点です。この建て替え作業は2024年1月上旬に実施しました。建て替えの方法としては、まずコンクリートで土台を作成し、その土台の上に金属製の架台を設置、さらにその架台の上にパネルを組み立てて建物を作成する手順で実施しました。このパネルは、南極という極地で耐えられる仕様であり、実際に昭和基地周辺の建物でも使用されています。

建て替え前の験潮カブースは、12次隊(1971年)から潮汐観測に利用され、50年以上使用されてきた建物です。そのため老朽化が進んでおり、2021年にはブリザードにより窓が大きく破損しました。これを65次隊で建て替えたことによって、観測機器や伝送に不具合が起こるリスクを減らすことができ、今後の継続的な観測が期待されます。

建て替え前の験潮所

建て替え後の験潮所

※下記でも詳しく紹介しています
https://www.nipr.ac.jp/antarctic/science-plan10/kihon-teijou05.html

極域の大陸地殻の形成発達と太古代-原生代の地球環境変遷に関する研究

本研究では、リュツォ・ホルム湾沿岸〜プリンスオラフ海岸〜エンダビーランドの広域の露岩域での地質調査によって、太古代(40-25億年前)から原生代(25-5億年前)にかけての長い時間軸での大陸地殻進化についての情報を引き出して、地球史における南極大陸のこの地域の位置付けとテクトニクスの再検討を行います。

以下の4つのエリアにおいて、露岩域での地質調査と岩石試料の採取を行いました。また、ドローンのフライトによって上空からの広域地質構造の確認なども行いました。

1.プリンスオラフ海岸:二番岩、かすみ岩、きんぎょ岩の3露岩でキャンプ(野営を伴う長期間調査)。他に7露岩での短時間〜日帰り調査。

2.リュツォ・ホルム湾南部〜西岸ボツンネーセ地域:ルンドボークスヘッタ、インステクレパネ、ベルクナウサネ、ベルナバネの4露岩でキャンプ(野営を伴う長期間調査)。他に4露岩での短時間〜日帰り調査。

3.昭和基地〜近傍エリア:東オングル島ならびにラングホブデの2露岩での日帰り調査。

4.エンダビーランド:復路のアムンゼン湾からヘリで、初調査地点を含めて6露岩の短時間調査。

上記の各エリアの調査結果と採取した岩石試料を用いて、今後、国内で以下の研究・解析をすすめます。

1.プリンスオラフ海岸で最近発見された9〜10億年前(Tonian)の変成岩類の分布や特徴、また周囲の地質との関係の検証。

2.リュツォ・ホルム湾西岸ボツンネーセ地域に想定される太古代と原生代の原岩地質境界の探索とその構造の解明および最近提案された新たな地体構造区分の検証。

3.昭和基地のあるオングル諸島で近年見いだされた6億3-4千万年前(この地域で一番新しい岩石)に形成された岩石の分布域およびその地球化学的特徴の解明。

4.エンダビーランドでおこなった日本隊初調査露岩の試料解析。また、太古代(>25億年前)の地球史初期記録の探索。

エンダビーランドで日本隊が初調査をおこなったミラー山

日本隊がはじめて本格的な地質調査をおこなったインステクレパネ。リュツォ・ホルム湾の最奥部にある白瀬氷河に面した露岩。ドローンで空撮した地質状況(A・B)と、露頭での高温変成岩類の産状(C・D)

JARE65で地質調査をおこなった露岩

※下記でも詳しく紹介しています
https://www.nipr.ac.jp/antarctic/science-plan10/ap1004.html

測地観測

GPSをはじめとするGNSSを用いた衛星測位技術は身近に利用されており、その位置情報(緯度、経度、高さ)は、国際的な位置の基準である国際地球基準座標系(以下「ITRF」という。)に基づいています。このITRFの構築に貢献するため、65次隊では、昭和基地にある複数の宇宙測地観測局の位置関係を精密に求める測量を行いました。

ITRFは、複数の宇宙測地技術(VLBI、GNSS、DORISなど)により構築されています。これらの異なる宇宙測地技術を結合させるためには、それぞれの観測局の位置関係を精密に求める必要があります。65次隊では、複数の宇宙測地技術が集結する貴重な地域である昭和基地において、VLBI局、GNSS局、DORIS局それぞれのアンテナ中心同士の位置関係を求める作業(コロケーション)を実施しました。位置関係は、VLBIアンテナを稼働させてVLBIアンテナ中心位置を求める測量、IGS(GNSS軌道情報を作成する国際機関)観測局であるGNSSアンテナ中心位置への取付観測、多目的アンテナドーム内外でトータルステーションを用いた多角測量や水準儀を用いた水準測量により求めました。また、新DORISアンテナの移設に伴う取付観測も併せて行いました。

今回の観測から求められた宇宙測地観測局の位置関係(暫定値)は、下図のとおりです。今後は、観測データの精査、再計算を実施し結果をまとめていく予定です。65次隊での観測結果が、ITRFの次期更新時に利用されることによって、南極地域において、信頼性の高い測地基準座標系の構築が期待され、より正確な位置情報の整備につながります。

昭和基地における宇宙測地観測局(暫定値)

※下記でも詳しく紹介しています
https://www.nipr.ac.jp/antarctic/science-plan10/kihon-teijou06.html

大型大気レーダーを中心とした観測展開から探る大気大循環変動

大気重力波は、大気大循環を駆動する力を運ぶ重要な波です。しかし、時空間スケールが小さいため、現在の最新の観測技術でも捉えるのが難しい現象です。そこで本プロジェクトでは、上空を長時間飛翔して大気重力波を観測するスーパープレッシャー気球と、昭和基地上空の大気重力波を高精度で観測するPANSYレーダーを組み合わせた同時観測を、複数年にわたって実施します。

65次隊では、2024年1月8日と2月3日に、昭和基地より2機のスーパープレッシャー気球を放球しました。気球は高度18-19kmをそれぞれ3日弱の間飛翔し、上空の気温・気圧・水平風速のデータを30秒間隔で地上局に送信しました。そして、2機の気球は最後は南大洋上に降下して観測を終了しました。また、スーパープレッシャー気球観測と同時にPANSYレーダーを用いた高度1.5-20kmの高時間分解能特殊観測も実施しました。これにより、昭和基地上空の3次元風速の時間高度断面を通常の2倍の時間分解能で取得しました。

今回のスーパープレッシャー気球観測により、高度18-19kmの大気重力波を捉えることに成功しました。今後、PANSYレーダーのデータと併せて解析することにより、南極域における大気重力波の効果を3次元的に捉えることができると期待されます。この結果を天気予報や気候変動予測の精度向上につなげていく予定です。また、67次越冬隊では、越冬期間中のスーパープレッシャー気球観測を計画しています。

立ち上げ中のスーパープレッシャー気球

スーパープレッシャー気球の放球メンバー

※下記でも詳しく紹介しています
https://www.nipr.ac.jp/antarctic/science-plan10/juuten06.html

極冠域から探る宇宙環境変動と地球大気への影響

本プロジェクトでは、地球システムが宇宙とどう接続しているのかを知るため、オーロラをはじめとする、宇宙から大気へ影響を与える高エネルギー粒子を測定し、研究しています。

65次隊では、昭和基地において、既存の観測器(高速オーロラカメラ、極冠オーロラカメラ、ミリ波分光計、宇宙線、スペクトルリオメータ)による観測を継続・改良して、観測データを順調に蓄積しています。また、海外基地におけるオーロラ観測も順調に継続しています。さらに、ドームふじ観測拠点IIでは、将来の観測に必要な電力をまかなうための風力発電の試験を行いました。

昭和基地の機器はおおむね順調に観測を継続できており、64次夏隊で持ち込んだ極冠カメラでは新種のオーロラが幾つか発見され、今後の解明が期待されています。ドームふじ観測拠点IIの風力発電は、低温と弱風により風車がほぼ回転しない不具合が発生したことから、こうした厳しい環境下でも稼働する風車を実現すべく、改良試験を進めています。

ドームふじ観測拠点IIに設置した風力発電装置(中央右)

※下記でも詳しく紹介しています
https://www.nipr.ac.jp/antarctic/science-plan10/juuten07.html

昭和基地におけるPANSYレーダー、HYFLITS気球による大気乱流特性の協調観測

乱流と呼ばれる大気中の小さな乱れは、エネルギーを熱に変換したり、物質を混合したりする重要な役割を持っています。GODSILA (Guided Observations of Dynamic Shear Instability Layers over Antarctica) キャンペーンは、乱流測定用のHYFLITS気球観測装置を昭和基地から約40日間で40機放球し、重力波と乱流の生成・発達・消滅過程を詳細に捉えます。この観測により、乱流プロセスの正確なモデリングを可能にし、南極域の天気予報の改善に貢献します。

HYFLITS気球観測装置は、広範囲な大気乱流スケールとエネルギーを測定するための高解像度のファイヤーワイヤー風速計と温度計、および水平風、気圧、温度、湿度の典型的な気象観測のためのラジオゾンデモジュール(Vaisala RSS421)を搭載しています。2023年12月25日から2024年2月6日までの44日間で、合計40回のHYFLITS気球の放球に成功しました。同期間中、4回の集中観測期間を設定し、高度9-12kmの間に位置する強い対流圏界面ジェットや強いカタバ風(または夏のブリザード)時に発生する地形性重力波、および2回のスーパープレッシャー気球観測との同時観測を目的として、それぞれ2〜4個のHYFLITS気球を連続して(3.5時間に1回)、または6時間間隔で放球しました。

計40回のHYFLITS気球観測と、同時に実施されたPANSYレーダー観測、スーパープレッシャー気球観測、および気象庁のラジオゾンデ観測を組み合わせることで、昭和基地周辺の南極沿岸域で発生する様々なスケールの大気重力波発生源とその砕波、およびケルビン-ヘルムホルツ不安定性(KHI)の特徴を明らかにすることができると期待されます。

GODSILAキャンペーンの概念図

HYFLITSの受信用アンテナ

※下記でも詳しく紹介しています
https://www.nipr.ac.jp/antarctic/science-plan10/ap1007.html

急激な氷床質量損失を駆動する氷河・接地線・棚氷の変動とそのメカニズム

地球最大の氷の塊である南極氷床は、近年縮小し海水準の上昇に影響を与えています。本プロジェクトでは、南極氷床縮小の鍵となる、氷河の流動、カービング(氷山分離)、棚氷の底面融解のメカニズムを明らかにします。65次隊では、GPS(全地球測位システム)や地震計、無人飛行機などをリュツォ・ホルム湾に流れ込む複数の氷河で運用し、氷河流動や氷震を測定しました。また、氷河上では氷レーダーや地震波探査を行い、氷河流動・変動を理解する上で重要な氷底地形や基質に関する情報を取得しました。

ラングホブデ氷河をはじめテーレン氷河や白瀬氷河の3つの氷河、計5地点において、GPSや地震計により氷河流動や氷震を同時観測することに成功しました。また、ホノール氷河やラングホブデ氷河では無人航空機を用いて空中写真を取得しました。この写真を解析して、氷河流動や変動の空間分布も定量化する予定です。テーレン氷河では、事前調査で示唆された氷底湖の存在を明らかにするために、地震波や氷レーダーを用いた氷床底探査を実施しました。スカルブスネスでは、氷レーダー観測により氷床底面の地形を取得したほか、神の谷池に水圧計を設置し水位の連続観測を開始しました。

リュツォ・ホルム湾に流出する多くの氷河で同時期に同質のデータを取得し比較することで、現在の気候下における氷河変動と流動メカニズムの理解が進むことが期待されています。また、これらの知見を基にして、将来的には熱水掘削を用いた氷河底面環境の直接観測への展開を目指しています。

観測を行った氷河

海へ流れ出すテーレン氷河

無人飛行機による空中写真測量

氷河上に設置したGPS測定局

タイムラプスカメラによる観測

スカルブスネスの氷床と神の谷池

※下記でも詳しく紹介しています
https://www.nipr.ac.jp/antarctic/science-plan10/juuten03.html

マルチスケールのペンギン行動・環境観測で探る南極沿岸の海洋生態系動態

近年、南極の海氷が急速に減りつつあり、それが沿岸の海洋生態系にどのような影響を及ぼすか、注目が集まっています。我々は、アデリーペンギンの行動と、彼らのいた場所の海洋環境を詳しく調べることで、海氷の変動とペンギンの餌採り・繁殖をつなぐメカニズムを探ることを目的として、65次隊の観測を行いました。

11月上旬に2名が先遣隊で昭和基地に入りました。付近の「まめ島」で繁殖中の、数100kmの範囲を移動する抱卵期のアデリーペンギンに小型の海洋観測ロガーやビデオロガーを取り付け、海中の水温、塩分、餌生物の様子などを調べました。また、ペンギンの血液や餌となる生物を採集しました。

12月下旬からは、「しらせ」で到着したメンバーと合流し、昭和基地から50km南にある露岩域に移動しました。そこにある小さな「鳥の巣湾」コロニーで、約10kmの範囲を行動する育雛期のペンギンを対象に抱卵期同様の調査を行ったほか、コロニーの大多数のペンギンを2週間程度行動追跡して群の行動を調べると共に、付近の海中をROV(遠隔操作型無人潜水機)で調べ、海氷下の食物網を分析するための生物試料を採取しました。さらに、沿岸でROVの水中光通信試験を行ったほか、ペンギンの巣立ち雛に衛星発信機を装着して、彼らの行動を追跡中です。

今回の調査では、ペンギンの行動範囲が異なる抱卵期と育雛期に、海氷近くの水温や塩分のデータを得ることができ、また、150羽以上のペンギンの行動を同時に追跡できました。帰国後は、春から夏にかけての沿岸の塩分や水温の変化の分析、低次から高次の栄養段階に至る食物網の分析、ペンギンの群の成り立ちの分析などを通じて、海氷や海流の影響が、南極沿岸の生態系の中でどのように伝わってゆくかを明らかにしていけると期待しています。

背中にデータロガーを装着したアデリーペンギン

小規模な鳥の巣湾コロニー

まめ島で抱卵中のアデリーペンギン

ROV(遠隔操作型無人潜水機)で海氷下を観察する

※下記でも詳しく紹介しています
https://www.nipr.ac.jp/antarctic/science-plan10/ap1006.html

設営

新夏期隊員宿舎1期工事

昨年施工した均しコンクリートの上に、建物の建設工事を行いました。昭和基地へ輸送した鉄骨、1階木土台、1階床・壁木質パネル、2階床木質パネルの施工を行いました。鉄骨を組立、基礎コンクリートと1階機械室土間コンクリートを打設、1階の木工事を行い、2階床で1層目を覆うところまでの工事を終了しました。

来年以降は、66次隊で2期工事(2階壁、3階床)、67次隊で3期工事(3階壁、屋根、通路棟)の施工を予定しています。

65次夏工事終了時の新夏期隊員宿舎

鉄骨組立

1階床木質パネル施工

機械室土間コンクリート打設

※下記でも詳しく紹介しています
https://www.nipr.ac.jp/antarctic/jarestations/

広報

情報発信

昨年度に引き続き広報を専任で担当する隊員を派遣して、「観測隊ブログ」の高頻度での更新や、極地研公式SNS(X, Instagram, Facebook)の活用を通じて、即時性の高い情報発信を行いました。

また、昭和基地と国内を衛星回線で繋いだイベントとして、64次隊の越冬期間中に、国内の学校に向けた「南極教室」を14回、極地研と連携協定を結ぶ科学館等との共催で実施したイベント「南極・昭和基地ツアー」を2回実施しました。また、極地研の一般公開と同時開催のニコニコ生放送で「南極ライブトーク」を実施したほか、夏期間中はYouTubeライブ「夏の昭和基地へようこそ!」の配信を行いました。

さらに、夏隊には新聞・テレビの報道関係者が同行し、新聞誌面や全国放送の報道番組等で観測隊の活動に関する情報を広く発信しました。

教員南極派遣

65次夏隊では、教員南極派遣プログラムで2名の現職教員を派遣し、計3回の「南極授業」を行いました。

こうした幅広い活動を通じて観測の意義を正しく伝え、社会との双方向コミュニケーションを図ることで、南極地域観測を皆さんと共に創っていきます。

「南極教室」の様子(64次越冬隊)

「南極授業」昭和基地側の様子

※下記でも詳しく紹介しています
https://www.nipr.ac.jp/antarctic/outreach/

ドームふじ周辺での主な活動

最古級のアイスコア取得を目指す第3期ドームふじ深層掘削

本プロジェクトでは、東南極氷床の頂上の一つであるドームふじ近傍において、100万年以上まで連続して遡って環境変動を解明可能なアイスコアを採取することを最大の目的としています。65次隊では、ドームふじ観測拠点IIにおけるコア処理場や貯蔵庫の建設、掘削場における浅層コア掘削など、来シーズンから始まる深層掘削に向けた準備を目的としました。

65次先遣隊は2023年11月3日に航空機で昭和基地に到着し、64次越冬隊メンバーと合流、準備の後、13日に大陸沿岸の出発点から約1000km離れたドームふじに向けて出発しました。ルート上においては雪尺による表面質量収支観測や精密GNSS測量による氷床表面高度観測などを実施しました。

深層掘削地点にある「ドームふじ観測拠点II」には約1ヶ月半滞在し、深層アイスコア掘削の様々な準備を行いました。昨年完成した掘削場では、深さ10m、奥行き最大10m、幅60cmの掘削ピットを手作業で作成し、その底部から深層コアにつながる浅層コア掘削(雪面から126mまで)を行いました。その後、107m深までのリーミング(掘削孔の拡幅)を行い、ドリルマストを組み立て、ケーシングパイプを設置しました。一連の作業をもって深層掘削の準備が整いました。さらに、残りの期間で深層ドリルの組み立てや液封液の掘削孔への注入を行いました。

ドームふじ観測拠点IIでの掘削場関連の建設が終了し、掘削場内での浅層コア掘削からケーシングまでの準備作業が順調に進んだことは、来シーズン以降に計画している深層コア掘削につながる大きな成果となりました。また、雪尺観測や氷床表面高度、流動速度観測等は、南極氷床変動の実態把握に寄与します。

ドームふじ観測拠点IIの全景

65次で行った掘削場での各種作業

ケーシングパイプの挿入作業

浅層ドリルによるコア掘削の様子

深さ10mの掘削ピット

※下記でも詳しく紹介しています
https://www.nipr.ac.jp/antarctic/science-plan10/juuten01.html

設営

新掘削場建設工事

2023年12月3日から2024年1月13日まで、ドームふじ観測拠点IIにおいて掘削関連施設の工事を行いました。64次隊で建設した掘削場内で、深層掘削ドリル用の深さ10mのピット施工と、一時貯蔵庫、コア処理場、コア最終貯蔵庫、垂直リフト小屋の建設を行うとともに、電気工事や発電機の立ち上げを実施しました。

真上から見た掘削施設(上)とその断面図(下)

パラドロップ(物資の空中投下)

12月16日にはドームふじ基地近傍に航空機による燃料輸送が行われました。パラシュートが付いた燃料ドラム缶が空中から投下され、地上に待機していた隊員により合計200本の燃料ドラム缶が全て回収されました。

航空機から投下された物資

航空機から投下された物資

地上での回収作業

※下記でも詳しく紹介しています
https://www.nipr.ac.jp/antarctic/jarestations/

「しらせ」船上での主な活動

東南極の氷床-海氷-海洋相互作用と物質循環の実態解明

本プロジェクトでは、氷床―海氷―海洋結合システムの統合研究観測を実施し、暖かい海洋による東南極の氷床質量変動と、これに伴う海洋環境と物質循環変動の実態を解明します。東南極において近年流動が加速し、融解が懸念されるトッテン氷河‐ビンセネス湾沿岸域(ウィルクスランド沖)、および近年顕著な氷床-海洋相互作用が確認されたリュツォ・ホルム湾に着目し、暖かい周極深層水(暖水)の沖合から陸棚域への流入と、陸棚域において氷河末端域への暖水流入を促進・制限するプロセス、流入した暖水に起因する氷床融解が淡水加入を介して下流域の南極底層水形成や物質循環に与える影響の解明を目指します。

海の中の構造を理解するためには、船で直接訪れてその場で海水を測定・採取したり、海底地形情報を収集する必要があります。また、海氷域においては広範囲の情報を得るため、停船して測器を投入するだけでなく、投下式の測器を航行中に展開します。

65次隊では、停船観測によるCTD/LADCP観測、投下式水温塩分観測、耐氷ブイ観測に加えて、係留系の投入回収や航行中の表層連続観測などを行うことで、リュツォ・ホルム湾やトッテン氷河沖における海洋の水温や塩分、栄養塩の濃度、未探査領域の海底地形などを調べました。加えて、物質の輸送にかかわる海氷そのもののサンプリングも実施しました。

今回取得した海水を持ち帰って国内で精密に分析することで、海水中にある炭酸成分の量など、さまざまな海水の特徴があきらかになることと期待されます。また、海洋によってどの程度の量の棚氷を融かしうる熱が輸送されているのか、輸送のプロセスとともに評価します。さらに、海氷の種類やサンプリングした地域ごとにどのような物質が含まれ、海洋の物質循環に貢献しているのかについて明らかにします。加えて、新たに判明した海底地形情報によって、海水輸送プロセスの理解、棚氷消失過程や暖水輸送過程を行う数値シミュレーションの高精度化が期待されます。

「しらせ」での海洋観測の様子

ゴンドラを利用した海氷サンプリング

海氷上の観測点への移動

※下記でも詳しく紹介しています
https://www.nipr.ac.jp/antarctic/science-plan10/juuten04.html

「海鷹丸」(別動隊)での主な活動

基本観測(海洋物理・化学)

本観測では、氷縁付近を含む観測点での南極底層水観測を⻑期にわたって継続しており、水深3,000m以深に及ぶ水温・塩分の動態を監視するとともに、その調査研究結果(データ)を国内外の関係機関の利用に供することを目的としています。

東京海洋大学練習船「海鷹丸」による別動隊により、観測頻度の少ない東南極(南大洋インド洋区)において、氷縁海域を含む南極海の海洋物理・化学データを取得し、過去50年近く担ってきた海洋環境の長期変動調査について、高精度、かつ、より深層へと挑んだ観測を実施しました。

65次隊では、東経110度ライン上の南緯40度、45度、50度、55度、60度、61度、63度、64度、65度(海氷縁域)の9測点において、CTD(塩分・水温・深度計)-採水システム観測を実施しました。観測は海面から海底直上までのキャストで水温、塩分、溶存酸素の鉛直分布を得ると同時に、ニスキンボトルによる採水を行い、塩分、溶存酸素、栄養塩の分析を行いました。

今回の観測では、63度以南の海域に多数の氷山が存在したため、63〜65度の観測点は東にシフトせざるを得ない状況でしたが、設定された許容範囲内(60マイル)での観測を達成することが出来ました。

こうした観測による精度の高い水温、塩分測定や海水の化学分析により、水深3,000m以深に及ぶ物理・化学環境の動態、および海洋大循環の駆動源となる南極底層水の監視を強化することができます。また、取得した南極海の物理・化学データは国内外の関係機関の利用に供することで、地球環境変動への影響評価に貢献します。この観測は今後も継続し、長期変動の監視と抽出に相応しいデータを蓄積していきます。

CTDシステムによる南極底層水観測(水温・塩分)

※下記でも詳しく紹介しています
https://www.nipr.ac.jp/antarctic/science-plan10/kihon-teijou03.html

東南極の氷床-海氷-海洋相互作用と物質循環の実態解明

本プロジェクトでは、氷床―海氷―海洋結合システムの統合研究観測を実施し、暖かい海洋による東南極の氷床質量変動とこれに伴う海洋環境と物質循環変動の実態を解明します。東南極において近年流動が加速し、融解が懸念されるトッテン氷河‐ビンセネス湾沿岸域(ウィルクスランド沖)への暖水輸送経路および暖水流入メカニズムを理解するため、オーストラリアー南極海盆における暖かい周極深層水(暖水)の極向き輸送をもたらす巨大定在海洋渦の維持形成過程や、物質循環に与える影響の解明を目指します。

南極氷床を融解させる暖水の空間分布、流量などを理解するためには、船で直接訪れてその場で海水を測定・採取する必要があります。65次隊では、停船観測によるCTD/LADCP観測、採水、ADCP観測、投下式水温塩分観測といった様々な手法を取り入れて、オーストラリアー南極海盆、特にトッテン氷河への暖水流路における海洋の水温や塩分、栄養塩の濃度を調べ、さらに物質の輸送にかかわる海氷そのもののサンプリングも実施しました。また、長期観測を行った係留系の回収を行いました。

今回の観測データを国内で精密に分析することにより、海洋の熱量や炭酸成分・栄養塩・動植物プランクトンの空間分布など、南極海の特徴があきらかになることが期待されます。また、棚氷を融かしうる熱がどのようにどれだけ南極に向かって輸送されているのか、その輸送のプロセスとともに評価します。そして、新たに投入した係留系を次年度回収することで、流量や熱フラックスそのものの時系列情報を取得し、海洋熱を輸送する海流の変動要因を明らかにするとともに、海水輸送プロセスの理解、棚氷消失過程や暖水輸送過程を行う数値シミュレーションの高精度化に貢献できると考えています。

氷山が存在する海域でのCTD観測

※下記でも詳しく紹介しています
https://www.nipr.ac.jp/antarctic/science-plan10/juuten04.html