2022年3月28日(月)、南極観測船「しらせ」が横須賀港に入港し、第62次南極地域観測隊(越冬隊)31名、第63次南極地域観測隊(夏隊)35名が無事に南極での任務を終えて帰国しました。
このページでは、第62次南極地域観測隊の越冬期間(2021年1月~2022年2月)と第63次南極地域観測隊の夏期間(2021年11月~2022年2月)で実施された活動の概要および活動成果トピックスをご紹介します。

活動成果トピックス一覧

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海面の高さをリアルタイムに測る潮汐観測(西の浦験潮所):水位計の設置 昭和基地周辺地域における火星模擬候補地の調査
新たな量子型絶対重力計AQGを使用した重力測定 設営(旧建屋解体工事/西部地区新規道路工事)
大型大気レーダー(PANSYレーダー)を中心とした通年連続観測 情報発信
ラングホブデ氷河での熱水掘削 ルート整備と荷揚げなども含めた内陸旅行の準備
スーパープレッシャー気球による観測 地球システム変動の解明を目指す南極古環境復元
降水レーダーを用いた昭和基地付近の降水量の通年観測 ドームふじ基地周辺にもたらされる降雪の水蒸気起源の解明
昭和基地での絶対重力測定とラングホブデ・スカルブスネスなどでの野外観測 氷床・海氷縁辺域の総合観測から迫る大気―氷床―海洋の相互作用
露岩域での地質調査    
海面の高さをリアルタイムに測る潮汐観測(西の浦験潮所):水位計の設置
新たな量子型絶対重力計AQGを使用した重力測定
大型大気レーダー(PANSYレーダー)による通年連続観測
ラングホブデ氷河での熱水掘削
スーパープレッシャー気球による観測
降水レーダーを用いた昭和基地付近の降水量の通年観測
昭和基地での絶対重力測定とラングホブデ・スカルブスネスなどでの野外観測
露岩域での岩石試料採取による地質調査
昭和基地周辺地域における火星模擬候補地の調査
設営(旧建屋解体工事/西部地区新規道路工事)
情報発信
ルート整備と荷揚げなども含めた内陸旅行の準備
地球システム変動の解明を目指す南極古環境復元
細氷が当該地域の気温と酸素同位体比の関係に及ぼす影響の解明
氷床・海氷縁辺域の総合観測から迫る大気―氷床―海洋の相互作用

昭和基地周辺での活動

海面の高さをリアルタイムに測る潮汐観測(西の浦験潮所):水位計の設置

担当:齊藤(JARE63夏)

63次夏期間の2022年1月14日に、昭和基地内にある西の浦験潮所の沖に水位計を設置しました。

昭和基地周辺の海岸は、ほぼ1年中海氷で覆いつくされており、水位計を設置するためには海が見えていないと設置ができません。そのため、62次越冬中に砂を撒き、海氷が溶けるように促しました。63次隊が昭和基地に到着してから、水位計と験潮所を繋ぐ200メートルのケーブルに保護管を通すなど、本格的な準備を行いました。

1月の中旬になると、砂を撒いたおかげで海氷も溶けて海が見え、ゴムボートで水位計を運んで、岸から約50メートル沖合の海底に設置することができました。

実際の作業は、海氷に苦戦をしました。海面には薄い氷があり、ゴムボートで割りながら設置点まで進みました。海中を水中ビデオカメラで確認をすると海中の目に見えないところにも海氷があり、水位計を降ろす際に引っかからないよう設置点を何点も変更しました。今までこのような経験はしたことがなく、苦戦しましたが貴重な経験ができました。

水位計から得られるデータは海図作成にはもちろん津波等の海洋現象研究の基礎資料としても活用されている重要な観測です。継続して正確に観測し続けることが重要であり、今後も引き続き取得していかなければならないデータです。

ゴムボートに乗船し水位計を設置する様子

新たな量子型絶対重力計AQGを使用した重力測定

担当:高木(JARE63夏)

昭和基地には、国際的な「重力」の測定点IAGBN(A)があり、国土地理院は、南極地域の重力の基準を定め、維持するとともに、南極地域の重力場を把握することを目的として、IAGBN(A)において、定期的に絶対重力計を用いて重力を測定しています。

この四半世紀ほどは、FG5という絶対重力計を用いてきましたが、63次隊で初めて量子型絶対重力計AQGという、FG5とは異なる機構を持つ絶対重力計を用いて測定を行いました。また、AQGは屋外でも測定できるように作られており、国土地理院としては初めて野外において、絶対重力計を用いた測定を行いました。

まず、屋内のIAGBN(A)でFG5と整合的な重力値が得られることを確認した後(2021年12月22日~24日、28日~30日)、12月30日に昭和基地屋外のBM2316という測定点で測定しました。さらに、昭和基地から30キロメートル程度離れた場所にあるラングホブデ雪鳥沢で、12月15日から16日まで、AGS01という測定点で測定しました。

南極でAQGを用いて測定することが初めてであったため、まずは正常に測定できるかということが焦点の一つでした。特に、野外での観測は、低温環境下という懸念もありましたが、結果的には屋内・屋外ともに比較的順調に測定を実施できました。外での観測では、機械をテントの中に入れ、防風・防寒対策を行ったことも大きいと思われます。ラングホブデでは、悪天に見舞われ測定時間が予定より短くなってしまったのは残念でしたが、予定していた測定点で測定結果を持ち帰ることができ、安堵しています。

国際的な測定点であるIAGBN(A)点で、FG5とAQGという異なる機構を有する絶対重力計を用いて測定できたことは、結果をより客観的に評価することにつながるためとても意味のあることでした。また、今回AQGを用いて、南極の屋外でも重力の絶対値の測定が可能であることが分かりました。今後、昭和基地やラングホブデ以外の露岩域で、このような測定を実施し、広範囲にわたり正確な重力の値を決定することにより、南極地域の重力場がより正確に把握できるようになります。

昭和基地重力計室内のIAGBN(A)でのAQGを用いた重力の測定の様子

ラングホブデ雪鳥沢AGS01でのAQGを用いた重力の測定の様子
屋外にテントを設置しその中で測定を行いました

テント内の様子

大型大気レーダー(PANSYレーダー)を中心とした通年連続観測

担当:溝脇・小新・杉山(JARE62越冬)、虫明(JARE63夏)、立川・溝口(JARE63越冬)

62次越冬・63次夏では、PANSYレーダーによる通年連続観測を中心に、電波や大気放射光を用いた南極上空の温度・風速・組成の相補的諸観測を行いました。

①通年連続観測データの取得

PANSYレーダーをはじめとする各種電波・光学観測を継続し、いずれも高精度な連続データを取得することに成功しました。特に、PANSYレーダーでは、これまでの標準観測に加え、流星風観測を2021年2月末より開始して、高度75-100キロメートルの水平風速データを取得しました。また、新たな観測として、水蒸気のコラム量を測定する水蒸気水平分布観測を実施しました。

PANSYレーダー

②大型大気レーダー国際協同観測(ICSOM-7)

2022年1月に、北極成層圏では、例年よりも低温の状態が継続しました。この気象イベントに対する全地球大気の応答を調べるため、2022年1月22日から31日まで、大型大気レーダー国際協同観測(ICSOM-7:Interhemispheric Coupling Study by Observations and Modeling)を日本のプロジェクトチームが主導しました。昭和基地のPANSYレーダー観測では、ほぼ連続した良好な中間圏観測データの取得に成功しました。

ICSOMの国際大型大気レーダー網

③近赤外大気光イメージャの更新

中間圏界面(高度80-100キロメートル)付近の大気光の発光を観測する近赤外大気光イメージャを、観測窓の凍結や外部からの赤外線ノイズに影響されにくい保温箱に入れて屋外に移設しました。これにより、より高精度な大気光データの取得が可能となりました。

南極での観測は、しばしば厳しい気象条件にさらされます。63次夏期間には、2回のブリザードが襲来し、例年以上に作業の難しい年となりました。しかし、そんな中でも隊員同士で連携・協力し、予定していた作業を完遂することができました。

近赤外大気光イメージャの更新作業風景

各種電波・光学観測により、幅広い高度領域における風速、温度、微量成分等のデータを取得し、南極域における大気上下結合のデータベースが構築されつつあります。また、大型大気レーダー国際協同観測のデータが蓄積され、南極と北極をつなぐ大気大循環がどのように影響しあって変動するのか、そのメカニズムは何なのかを探る研究が進展すると期待されます。さらに、PANSYレーダーや近赤外大気光イメージャをはじめとする電波・光学観測のデータが蓄積され、南極における大気波動現象の実態解明も進むと期待されます。今後は、これらの観測を継続し、より長期的な気候変動の研究を進めていきます。

ラングホブデ氷河での熱水掘削

担当:杉山・箕輪・近藤(JARE63夏)

63次夏期間中の2021年12月16日から2022年2月6日に、昭和基地の南方20キロメートルに位置するラングホブデ氷河において野外観測を行いました。このプロジェクトでは、熱水を使って氷を掘削し、氷河の底面と内部の観測によって氷河流動メカニズムの解明を目指します。

平均6名の観測隊員が、氷河上で約6週間のキャンプ生活しながら、3地点で5回の掘削を実施しました。特に氷河が陸に載った上流域では3回の掘削に成功し、厚さ550メートルの氷河底面に氷の滑りや水圧を測定する装置を設置しました。その他、GPSや地震計を用いて氷の流動を測定し、電波を使った氷厚探査や、ドローンや自動撮影カメラによる観測を実施しました。

ラングホブデ氷河の末端部
写真の中央付近で熱水掘削を行いました。

熱水掘削の様子
約90度の熱水を1分間に30リットル噴射して氷を掘削します。

この熱水掘削によって、南極ではほとんど例の無い氷河底面での測定に成功しました。

その結果、氷河の底面水圧が氷河融解や海洋潮汐によって変動し、氷河のすべりに影響を与えていることが判明しました。この結果は、海洋と大気の影響を受けて氷を失いつつある南極氷床の、将来変動を予測するために重要な知見となります。

現地で続く測定は、1年後にデータ回収を計画しており、長期測定によるさらなる成果が期待できます。

ラングホブデ氷河での熱水掘削は、4年前に続いて、今回で3回目でした。今回は「しらせ」が搭載する大型ヘリコプターの支援を得て、約8トンの物資を氷河まで輸送。これまでよりも長い6週間にわたって、氷河上での観測を満喫することができました。

天候の急変、強い風、朝晩の冷え込みなど、氷河の厳しい環境と対峙しながら、難しい観測を実現したのは素晴らしい経験でした。科学的な成果に加えて、厳しくも美しい氷河の様子をみなさんに伝えられたらと思います。

しらせ搭載ヘリコプターによって、
氷河上へ物資を輸送する様子

6週間を過ごした氷河上のキャンプ

1月末になると、夕方に陽が傾いて
空がピンクに染まります

スーパープレッシャー気球による観測

担当:冨川・村田(JARE63夏)、堤(JARE63越冬)

日本初となるスーパープレッシャー気球を用いた大気重力波の観測を、63次夏期間に実施しました。

大気重力波は、大気中の運動量輸送を担い、成層圏・中間圏の温度・物質分布の決定に重要な役割を果たします。スーパープレッシャー気球は、一定高度(今回は18キロメートル)を10日以上浮遊することが可能で、2次元風速と気圧の観測により、重力波の運動量輸送を全周波数帯域で定量的に測定でき、その水平分布もとらえることができます。

今回は、昭和基地から3機のスーパープレッシャー気球を放球し、一定高度の浮遊(レベルフライト)による観測に成功しました。これらの観測により、気球の放球手順が確立され、観測装置が十分な性能・信頼性を持つことも確認されました。

一方で、レベルフライトの期間はいずれも3日以内で目標とした10日間には達することが出来ず、10日以上の長期フライトのためには、スーパープレッシャー気球の改良が必要であることも明らかとなりました。今後は、気球の改良を進め、夏期間だけでなく越冬期間の観測も実施していく予定です。

日本初の観測ということで、観測装置や気球のトラブルが起こったり、放球に必要な気象条件が整わずに放球を延期することもありましたが、多くの隊員や国内関係者の支援によって、予定していた観測を全て実施することができました。

この観測は、今、南極でやるからこそ面白い観測です。気球や観測装置の改良を進め、次の観測を実現したいと思います。

スーパープレッシャー気球の放球の様子

スーパープレッシャー気球の放球メンバー

降水レーダーを用いた昭和基地付近の降水量の通年観測

担当:柴田(JARE62越冬)、岩本(JARE63越冬)

62次夏期間に、昭和基地南西部の機械建築倉庫付近にレドームを建築し、その中に降水レーダーを設置しました。レーダーは、アンテナ長2.8メートル、1回転約2.5秒の舶用型のドップラーレーダーで反射強度(Z)、ドップラー速度(V)、速度幅(W)の3要素を測定し、距離分解能3.5メートル、角度分解能0.18度です。この分解能で、距離約10キロメートルまでのデータを収録するよう設定しました。また、正常にレーダー観測データが取得されているかを国内で確認するため、2021年5月中旬以降、3時間ごとに1回転分のデータをオンラインで転送するよう設定しました。

2021年3月11日から2022年11月頃までを目指して、降水雲の通年での連続観測を実施。途中、計画停電や点検期間を除き、現在まで、ほぼ問題なく連続してデータを取得しています。

この観測から、降雪量の時間変化やブリザードの強風構造の時間変化などが明らかになることが期待されます。

63次越冬中も引き続き降水レーダー観測を継続し、レーダー観測の比較検証観測として弱風時に降雪量や降雪粒子の形状の観測を行う予定です。

また、62次で入手したレーダーデータを用いて、降雪量やブリザードに伴う強風の詳細な時間変化の解析を行います。

レーダーが格納されたレドーム

観測結果の一例
3月17日の半径4㎞以内の北東-南西断面
上段:レーダー反射強度、下段:ドップラー風速
エコー頂3.5㎞の降雪雲の下層0.5㎞付近に36m/sを超える強風軸が観測されました。

昭和基地での絶対重力測定とラングホブデ・スカルブスネスなどでの野外観測

担当:新谷・岡(JARE63夏)

63次夏期間に、種類の絶対重力計(FG-5, A10, TAG)を用いて、昭和基地および宗谷海岸露岩域において、絶対重力測定を行いました。これまで測定実績のある昭和基地、ラングホブデ、ルンドボースクヘッタに加えて、スカルブスネスにおいても測定を実施しました。

TAGは、東京大学地震研究所で開発された火山など野外での使用を想定した絶対重力計で、今回初めてラングホブデにおいて野外測定が実施され、設備の整っていない場所でも測定可能なことが確かめられました。また、A10による測定では、各観測点において前回(59次)とほぼ同等の測定精度で重力値を得ることが出来ました。

63次の観測では、既に野外で測定実績のあるラングホブデとルンドボークスヘッタで再測定が実施されました。

一部の装置(FG-5のレーザー装置)については、最初不調であったものの、調整により回復しました。また、天候などによる日程の短縮で、ラングホブデ以外ではTAGを用いた野外測定は実施できなかったものの、予定していた測定は、ほぼすべて実施できました。

まだ暫定的な解析ではありますが、前回とほぼ同等の測定精度で重力値が得られており、約4年間に生じた重力変化の検出が期待されます。

今回、氷床上のS16において周辺環境や振動の調査を実施しており、将来、南極大陸内陸部へ絶対重力計による測定を拡げていく上で、有用な情報となります。

昭和基地・重力計室内での測定

A10による野外測定

露岩域での地質調査

担当:馬場・中野・加々島(JARE63夏)

野外地質調査では、63次夏期間に露岩域でベースキャンプを設置し、露岩域内の調査を徒歩でおこない、地質構造データや岩石試料を採取しました。

ベースキャンプを設置した露岩は、①ストランニッバ(2021年12月17〜21日)・②ルンドボークスヘッタ(2021年12月21日〜25日)・③西オングル島(2022年1月2〜11日)・④ちぢれ岩(2022年1月13〜16日)・⑤ベストホブデ東岩(2022年1月19〜24日)・⑥ベルナバネ(2022年1月24〜28日)の6箇所です。この6箇所のうち、ちぢれ岩とベルナバネは、これまで地質調査が行われていない未踏査露岩でした。両露岩では、地質図作成を目的とした無人ヘリコプターを用いた観測も行いました。また、ヒスタ・インステクレパネ・たま岬・明るい岬などでも、短時間ではありますが、岩石試料採取を実施しました。

さらに、今後の調査計画立案のためCH-101ヘリコプターを用いてプリンスオラフ海岸東部(竜宮岬〜梅干岩)とリュツォ・ホルム湾西部(ベルクナウサネ〜ヒスタ)の航空写真を撮影しました。

野外地質調査は、 悪天候(2度のブリザード)などにより難航しました。充分な調査時間は確保できなかったものの、1,480キログラムの岩石試料を採取することができました。

今後は、採取した岩石試料の鉱物組織観察・化学組成分析・同位体年代測定を実施し、各露岩の地質学的特徴を明らかにしていきます。このことにより、現在提案されているリュツォ・ホルム岩体の地体区分の連続性や問題を明らかにするとともに、プリンスオラフ海岸における10億年前の変成作用について、新知見を得ることができます。

厳しい自然条件の中で、個人・チームとして最大のパフォーマンスを発揮しながら、問題を乗り越え楽しんで得られる充実感を感じることができました。また、未知の研究対象が眠っていることも、この観測の大きな魅力の一つです。

「しらせ」ヘリのみによるオペレーション(ベルナバネ上空)

徒歩による経済的かつ環境にやさしい移動(西オングル島)

ハンマー・たがねを使った伝統的手法による試料採取(ちぢれ岩)

未知の岩石との遭遇(ちぢれ岩)

飛行科との連係プレー:露岩空撮の広域実施(ちぢれ岩)

ベースキャンプでのけたたましい地吹雪(ベストホブデ東岩)

昭和基地周辺地域における火星模擬候補地の調査

担当:野口(JARE63夏)

63次夏期間の2022年1月に、昭和基地周辺の南極大陸沿岸露岩域5箇所(①ラングホブデ・②スカーレン・③スカルブスネス・④ルンドボークスヘッタ・⑤明るい岬)で泊まりがけの地質・地形調査を実施しました。写真・動画撮影のほか、ポータブル近赤外分光計を用いた岩石の分光測定、岩石・水のサンプリングを行いました。また、スカルブスネスでは地面を掘って硬度計を用いて地下の硬さを測り、構造を調べました。本格的なデータ解析は帰国後に実施しますが、今回の調査で有望そうな場所をいくつか発見することができました。特にラングホブデでは、探査ローバーの走行試験に有用な、表面起伏にバリエーションのある場所を見つけることができました。

地形図をもとにして事前に調査ルートを決めましたが実際にはずいぶん険しく、たどり着くのが大変な場所がいくつもありました。また、ブリザードが来襲して2日間小屋に閉じ込められるなど調査期間は当初より短くなりましたが、ほぼ計画通りに調査を行うことができました。

本研究により、「昭和基地周辺地域の火星着陸探査模擬地としての有用性」が明らかになります。火星模擬地では、科学測機群や探査ローバーの試験運用に加え、過去の火星水環境を模擬した地域での科学データ(水-岩石反応による岩石の変質・風化など)の取得も期待されます。63次で得られたデータにより有用性が確認された場合には、模擬地での本格的な調査・観測・試験を計画したいと考えています。

ラングホブデの火星模擬候補地

設営(旧建屋解体工事/西部地区新規道路工事)

旧建屋解体工事

63次夏期間の工事として、環境科学棟と旧電離棟の解体工事を行いました。環境科学棟の解体は、62次夏期間の工事で残っていた床から高床基礎の解体を、重機を用いて行いました。旧電離棟の解体は、人力のみで建設時の逆の手順で行いました。また、64次夏工事で解体予定の、地学棟の内部資機材の搬出を行い、解体準備を進めました。

現在、設営部門では昭和基地の老朽化した建屋の解体を進めています。これまで、①61次夏での気象棟解体、②62・63次夏での環境科学棟解体、③63次夏での旧電離棟解体が完了しました。今後、地学棟、電離層棟の解体を計画しており、この2棟の解体が完了すれば、基本観測棟に機能移転した建屋の解体は全て終了することになります。

旧電離棟解体作業

環境科学棟解体作業

環境科学棟解体作業終盤

西部地区新規道路工事

63次夏期間の工事として、自然エネルギー棟から通路棟までの幹線道路を西側へ新設する工事を行いました。自然エネルギー棟北東側の岩盤を、重機と削岩機を使って破砕し、整地を行い、装輪車が走行可能な道路を建設しました。破砕した岩盤は、水汲み沢コンクリートプラントに運び、コンクリート作成時の骨材として利用します。

通路棟西側の岩盤破砕が63次夏では終わらなかったため、引き続き、64次夏期間の工事として計画し、新規道路の完成を目指します。

道路工事箇所
青点線:既存道路
赤点線:新規道路

情報発信

担当:金城(JARE62越冬)、白井(JARE63夏)、馬場(JARE63越冬)

63次夏期間に、教員南極派遣プログラムで2名の教員(渡邊・武善:JARE63夏)を派遣し、4回の南極授業を開催しました。南極授業を受けた児童・生徒からは、「改めて探究していくことの壮大さを感じました。」、「南極に行ってみたいと思いました。」など、沢山の感想が寄せられました。 派遣教員には、帰国後も引き続き南極観測を伝える活動をしてもらうことが期待されます。

また、62次隊の越冬期間に、昭和基地と国内を衛星回線で繋ぎ、国内の小・中・高校生に向けた南極教室を10件実施し、1200人以上の児童・生徒が参加しました。

そのほか、年間を通して、観測隊ブログや極地研公式SNS(TwitterInstagramFacebookYouTube)を活用し、即時性を持って、現地の様子を日々発信しました。

2021年9月には、文部科学省主催の「GIGAスクール特別講座 ~南極は地球環境を見守るセンサーだ!~」が開催されました。昭和基地と極地研究所、国内外の中学校10校を同時に衛星回線で繋ぎ、昭和基地の隊員から出題された南極ならではのクイズに生徒たちがオンラインで回答しました。YouTubeライブ配信も行いました。アーカイブは、2022年3月時点で、1万回以上再生されています。

南極授業の様子
2022年2月4日に開催した宇都宮大学共同教育学部附属小学校での南極授業終了時、スクリーンに映る派遣教員の渡邊雅浩教諭に向かって手をふる児童のみなさん。

内陸旅行:第3期掘削へ向けた内陸ドーム旅行

ルート整備と荷揚げなども含めた内陸旅行の準備

担当:62次越冬隊

63次隊では、62次で実施できなかった遅れを取り戻すべく、短い夏の間に、昭和基地から約1,000キロメートル離れたドームふじ基地まで2往復の内陸旅行を実施しました。

61次隊から引き継いだ向岩ルート整備に続き、62次越冬隊でも、①滑走路の整備と維持、②S16(ドームふじ基地へ向かう出発拠点)への物資や燃料ドラムの輸送、③旅行に使用する雪上車の点検整備、さらに④長期間の食料の準備などを行いました。

2021年11月に63次先遣隊を乗せたDROMLAN航空機が到着し、62次隊からも3名の隊員がドームふじ基地まで行動を共にして、オペレーションをサポートしました。

S17の滑走路整備の様子
幅40m長さ1kmの範囲を、雪上車でひたすら踏み均し平らにします。

DROMLAN航空機で到着した63次先遣隊

地吹雪の中を昭和基地からS16に物資を結おうする雪上車の列
走行しているのは海氷上、奥の高くなっている部分が南極大陸

ドームふじ基地に輸送する物資の準備(1)
昭和基地からS16に物資を輸送します。

ドームふじ基地に輸送する物資の準備(2)
夏にとっつき岬に空輸した燃料ドラム缶を掘り出して橇積みして、S16に運びます。

ドームふじ基地に輸送する物資の準備(3)
雪に埋まった液封液ドラム缶橇を掘り出して引出します。

昭和基地がある東オングル島から南極大陸に渡るには、凍った海の上(オングル海峡)を通行することになります。海氷上から雪上車で、南極大陸に上陸できる場所は、『なだらかな場所』に限られますが、南極大陸の縁辺のほとんどが氷の崖となっているため、昭和基地近くで上陸できる場所は2か所しかありません。1次隊の西堀榮三郎越冬隊長が見つけた「とっつき岬」と「向岩」という場所です。

これまでは、「とっつき岬」から上陸するルートを使って来ましたが、近年、「とっつき岬」の手前に大きなクラック(割れ目)ができて、安全な通行を妨げるようになりました。このため、62次隊では、「向岩」から上陸し、S16へ向かうルートを整備しました。この向岩ルートは、とっつき岬から向かうよりも、約10キロメートル近いことから、日帰り行動も可能になり、オペレーションの実施を柔軟に決めることが可能となりました。

とっつき岬ルートと向岩ルート
昭和基地からS16まで、とっつき岬ルートで35km、向岩ルートだと26km、と約10km違います

地球システム変動の解明を目指す南極古環境復元

担当:津滝・本山(JARE63夏)、中澤(JARE63越冬)

本プロジェクトでは、63次の夏期間に、S16からドームふじまでの片道1000キロメートルの内陸旅行を2回実施しました。

内陸旅行:1回目

2021年11月12日、ドーム隊メンバー9名は、雪上車計6台でS16を出発し、1回目の内陸旅行を開始。第3期ドームふじ深層コア掘削拠点の建設のために必要な物資を、ドームふじまで輸送することが、この旅行の主なタスクでした。12月1日にドームふじ基地に到着。4日間の現地滞在中に、輸送した物資や燃料のデポ、ドームふじ基地から約50キロメートル離れたNDF地点での日帰り観測を実施しました。12月4日に帰路出発し、12月16日にS16に帰着し、1回目の内陸旅行を終了しました。

内陸旅行:2回目

2021年12月18日に、63次「しらせ」で南極入りした3名と合流し、メンバーを入れ替えました。12月22日、ドーム隊メンバー11名は、雪上車計6台で2回目の内陸旅行へ出発しました。2022年1月5日に、ドームふじ基地に到着。13日間の現地滞在中は、①第2期ドームふじ掘削孔の延長作業、②第3期ドームふじ掘削のための、最終の氷床レーダ観測等を実施しました。1月18日に、帰路出発。1月30日には、H128から雪試料を「しらせ」と昭和基地に向けてヘリでの空輸を行いました。ヘリオペには、3名の隊員が対応し、本隊は1月30日に、3名の別働隊は1月31日に、S16に帰着。2回目の内陸旅行を無事に終了しました。

ドームふじ周辺域におけるレーダ探査ルート

ドームふじに輸送された建築物資

ドームふじに輸送された居住ユニットと燃料ドラム

2回目のドームふじ滞在中、ドームふじ南方域で、氷床レーダ観測を実施しました。レーダを搭載した雪上車が、ドームふじ基地を拠点として、6日半にわたって計700キロメートルの距離を走行しました。そして、探査地域における氷床下の基盤地形や氷床内部層構造、氷と岩盤の境界面の状態(凍結・融解)に資するデータを取得しました。今後は、解析したデータを軸に、氷床モデリング等を組み合わせて検討し、第3期ドームふじ深層コア掘削地点を決定していきます。

63次夏の行動は、1シーズン中にドームふじ基地を2往復する非常に大掛かりなオペレーションでした。1回目の旅行を開始した時点で、計画から5日遅れており、ブリザードによる数日間の停滞も覚悟する必要があったため、計画した観測・作業を全て達成できるか不安がありました。

しかし、①新型雪上車や新型橇の導入により輸送力が強化されたこと、②1回目の往路で走行したトレースが硬化しており、次回以降は車速を上げることができたこと、③天候に恵まれ、ブリザードによる停滞が1回(4日間)で済んだこと、④そして、メンバーの日々の努力と協力の積み重ねにより、予定していた観測・作業を、期間内に全て終了することが出来ました。

レーダシステムを搭載した雪上車

ドームふじ基地周辺にもたらされる降雪の水蒸気起源の解明

担当:森野(JARE63夏)

ドームふじ基地周辺にもたらされる降雪には、沿岸域から内陸域まで運ばれてくる水蒸気を起源とした降雪と、放射冷却によって上空の水蒸気が凍って降雪するダイヤモンドダスト(細氷)の2種類があります。では、ドームふじ基地ではどちらの降雪が卓越しているのでしょうか?この問いに答えを出すために、それぞれの降雪を、別々に自動採取できる降雪採取装置をドームふじ基地に設置しました。

この装置は、マイナス70℃でも動作する機構になっており、2022年1月から1年間、自動で月毎に降雪採取を行います。

2種類の降雪は、見た目は同じでも、細氷にはトリチウムという成分が多く含まれていることがわかっています。そこで、回収した試料の化学分析をおこない細氷に含まれるトリチウム濃度を明らかにします。この結果から、積雪中に含まれるトリチウム濃度の、過去から現在までの細氷の寄与率変動が明らかになることが期待されます。

降雪採取は単純な作業です。しかし、降雪量が少なく、さらに1日中太陽が沈まない夏季には降雪がすぐに昇華してしまうなど、南極内陸域での自動観測には、数多くの困難が立ちはだかっています。無事に1年間、採取ができることを願っています。

自動降雪採取装置の組み立て作業

ドームふじ基地に設置した自動降雪採取装置

しらせ船上

氷床・海氷縁辺域の総合観測から迫る大気―氷床―海洋の相互作用

担当:渡辺・李・渡部(JARE63夏)

海の中の構造を理解するためには、船で直接訪れてその場で海水を測定・採取したり、海水の特性を測る器材を一定の期間設置して(このシステムのことを「係留系」と呼びます)データや海水試料などを取得する必要があります。

63次夏隊では、この2つの手段を使って、海洋の水温や塩分、栄養塩の濃度などを調べました。なかでも、係留系の観測は挑戦的です。海中では電波を使うことが難しいため、データのやりとりが困難です。そのため、取得したデータはロガーに貯めておき、切り離し装置という機械を作動させて、係留系全体を海面まで浮上させ、まるごと回収できてはじめてデータが得られます。今回、2年間にわたる貴重な海洋のデータが記録されている係留系の回収に成功しました。

係留系をもちいた観測は、リスクの高い研究です。特に、高さが200~300mにもなる氷山がごろごろしている南極沿岸では、設置してある系に流れてきた氷山が衝突することも起こりえます。しかし、長期的な連続的な状態変化や船が近づけない冬季を中心として起こる現象を捉えるためには、係留系が不可欠です。無事に回収できた係留系は、宝石でいっぱいの宝箱なのです。

今回取得した海水を持ち帰って、国内で精密に分析することで、海水中にある炭酸成分の量など、さまざまな海水の特徴があきらかになることが期待されます。また、海洋がどの程度の熱を運んで棚氷をどのくらい溶かしているのか、引き続き評価します。係留系は、暖水流入が時間的に変化する様子を捉えられていると期待されます。得られた変化の原因を特定することで、今後どの程度のスピードで融解が推移するのか、評価することに役立ちます。

CTD採水システムとサンプリングの様子

係留系を投入する様子

氷の隙間に浮かぶ係留系

設置された係留系の一部