2023年3月22日(水)、第63次南極地域観測隊(越冬隊)、第64次南極地域観測隊(夏隊)は無事に南極での任務を終え、オーストラリアのフリーマントルから空路で帰国しました。

このページでは第63次南極地域観測隊の越冬期間(2022年2月~2023年1月)と第64次南極地域観測隊の夏期間(2022年11月~2023年3月)で実施された活動の概要および活動成果トピックスをご紹介します。

活動成果トピックス一覧

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昭和基地および昭和基地周辺での活動
海底地形調査
測地観測
宇宙天気・宇宙気候現象のモニタリング観測/SuperDARNレーダーを中心としたグランドミニマム期における極域超高層大気と内部磁気圏のダイナミクスの研究
中層・超高層大気モニタリング観測
南極大気精密観測から探る全球大気システム/大型大気レーダーを中心とした観測展開から探る大気大循環変動
東南極氷床変動の復元と急激な氷床融解メカニズムの解明
極冠域から探る宇宙環境変動と地球大気への影響
全球生物地球化学的環境における東南極域エアロゾルの変動
気象観測/東南極の大気・氷床表面に現れる温暖化の影響の検出とメカニズムの解明
氷床中の宇宙線生成核種を使った太陽粒子嵐の定量評価
海氷下における魚類の行動・生態の解明
南極観測用ペネトレータの開発と白瀬氷河および周辺域での集中観測
設営(解体工事・新夏期隊員宿舎工事)
ローカル5G(LTE)実証実験
8K映像伝送実証実験
情報発信・教員南極派遣
ドームふじ周辺での活動
東南極域における酸素同位体比の地理的分布とその形成要因の解明
最古級のアイスコア取得を目指す第3期ドームふじ深層掘削
ドームふじ観測拠点II設営工事
「しらせ」船上での活動
東南極の氷床-海氷-海洋相互作用と物質循環の実態解明①
南大洋上の雲形成メカニズムの解明と大気循環の予測可能性の向上
氷縁域・流氷帯・定着氷の変動機構解明と「しらせ」航路選択
船上観測とリモートセンシングを組み合わせた南大洋への鉱物粒子負荷量推定
南東インド洋海嶺にみる海底拡大様式と地球内部ダイナミクス
海鷹丸での活動
基本観測(海洋物理・化学)
東南極の氷床−海氷−海洋相互作用と物質循環の実態解明②

昭和基地および昭和基地周辺での活動

海底地形調査

海底地形調査は、海上保安庁により実施されている定常観測です。海底地形調査により得られる海底地形データは、大陸・海洋地殻の進化過程の解明に関する研究や、氷河による浸食や堆積環境などの古環境に関する研究の基礎資料として重要なものです。

64次夏期間の2023年1月25日、2月6日にラングホブデ氷河~オングル海峡で、海底地形調査を実施しました。「しらせ」に搭載されているマルチビーム音響測深機を使用し、海底地形を音波で測量し、海中の音速度計測のためXCTD観測を実施しました。

今回測量を実施した海域は、例年海氷に覆われている海域で、マルチビーム音響測深機による測量を実施したことのない海域でしたが、1月25日は調査海域のほとんどが海氷のない状態となり、2月6日も海氷が少ない状況での測量実施となりました。そのため、海氷によるノイズや海氷の回避動作によるノイズが少ない測量データを取得することができました。

現在の海図が刊行されてから長年更新されていない区域のデータを、今回取得することができました。海図の更新を実施することで、精度を向上することができます。また、ラングホブデ氷河前の海底地形の詳細なデータを取得できたことから、海洋研究の基礎資料としても活用されます。まだ海図範囲に多くある未測域の測量を今後も継続して実施し、海図の更新と、海底地形の基礎資料の蓄積を行うことが重要です。

ラングホブデ氷河前~オングル海峡海底地形メッシュ図

海底地形調査の様子

※この観測については、下記でも詳しく紹介しています
https://www.nipr.ac.jp/antarctic/science-plan10/kihon-teijou04.html

測地観測

南極地域の測地情報及び地形情報は、隊員の安全な野外活動を支える基盤となる情報であるとともに、地球規模の気候変動の解明に必要不可欠です。国土地理院は正確な測量を実施し、その結果を地図として整備しています。

昭和基地から南に9kmほど離れたオングル海峡で、63次隊が地図にない島を確認しました。現時点では1/25,000地形図に記載はなく、露岩でできた小さな島です。64次隊では、測量のために初めて上陸しました。

作業は、基準点を設置する地点を決めるところから始めました。地点が決まれば、ハンマードリルで岩に穴を開け、アンカーボルトを打ち込み、特注の金属標を取り付けて完成です。その後は、金属標の中心位置にGNSS測量機を設置し、24時間の測量を行いました。後日、測量に異常がなかったことを確認し、機材を撤収して作業は完了となりました。

今後の作業は、GNSS測量機で観測したデータを解析し、基準点の正確な緯度・経度を求めることになります。また、今回設置した基準点がヘリコプターや無人航空機から撮影する空中写真や人工衛星画像で視認できるよう、対空標識と呼ばれる「しるし」を基準点の周囲に白いペンキで描きました。この「しるし」を位置の基準として、空中写真や人工衛星画像から地図を作成することになります。島が描かれた地図が、今後の観測隊の活動や「しらせ」の安全な航海の一助となります。

ヘリから撮影した島の様子。島の中央付近に白ペンキで描かれた3枚羽の「しるし」(対空標識)が視認できる

基準点を設置し対空標識を塗り終えGNSS測量を開始したところ

※この観測については、下記でも詳しく紹介しています
https://www.nipr.ac.jp/antarctic/science-plan10/kihon-teijou06.html

宇宙天気・宇宙気候現象のモニタリング観測/SuperDARNレーダーを中心としたグランドミニマム期における極域超高層大気と内部磁気圏のダイナミクスの研究

磁場と大気で守られた地球周辺の宇宙空間(ジオスペース)は、太陽での爆発現象や太陽風の変化などによって大きな影響を受けます。この環境の変動は、「宇宙天気・宇宙気候」と呼ばれます。宇宙天気の乱れは、ハイテクな人間社会にも影響をおよぼし、長期的には地球の気候変動にも関係するとも考えられています。この宇宙天気・宇宙気候に関わる現象を長期間にわたり継続的に観測し、宇宙天気・気候現象の科学的理解を深め、将来を予測できるようにすることは重要です。

第IX期6か年計画の最終年にあたる63次越冬期間に、SuperDARNレーダー観測を継続しました。この研究観測は、第X期計画では長期モニタリング観測に移行します。第IX期の観測を基本的に引継ぎ、広く宇宙天気・宇宙気候の基礎データを取得することとなりました。64次夏期間には、空中線の保守作業を行ったほか、今後の長期安定観測のために、第2装置の空中線と観測小屋送信機を繋ぐ屋外の100m強の同軸ケーブル20本の交換作業を、設営部門および「しらせ」乗員の支援を得て実施しました。

第IX期6年間(58~63次)を通して、短波レーダーによる電離圏観測を実施しました。あらせ衛星や地上光学観測など、様々な衛星・地上観測との連携キャンペーンや長期観測を行うことにより、内部磁気圏のダイナミクスや昨今の低太陽活動期における極域超高層大気の研究が実施されました。それと同時に、国際SuperDARNの一翼を担い、多くの宇宙天気研究に貢献しました。第X期では、より長期にわたり安定した観測を実施し、宇宙天気・宇宙気候に関わる重点研究の重要構成要素として観測データが活用されることが期待されます。

昭和基地短波レーダー

SuperDARN観測網による広域宇宙天気図

空中線保守作業の様子

ケーブル更新作業の様子

※この観測については、下記でも詳しく紹介しています
https://www.nipr.ac.jp/antarctic/science-plan10/kihon-spuas02.html
https://www.nipr.ac.jp/antarctic/science-plan9/ippan-spuas04.html

中層・超高層大気モニタリング観測

南極は、地球大気最上端の大気大循環が夏に起点、冬に終点となる領域で、大気重力波はこの大気大循環を駆動するエネルギーを下層から輸送し、この領域に供給しています。本観測では、地球大気最上端での大気重力波によるエネルギー輸送をモニタリングするために、近赤外大気光イメージャを用いて中間圏界面付近(高度80-90km)に存在するOH大気光(波長1.5μm付近)発光層をイメージング観測します。近赤外大気光イメージャは、波長0.9~1.7μm(近赤外光)に感度のあるInGaAsカメラに魚眼レンズを取り付けたイメージャです。これを用いて、大気重力波によるOH大気光の輝度変調の時間変化を連続的に撮影することで、昭和基地上空の大気重力波の水平二次元構造と伝搬特性を観測します。

64次夏期間の観測では、保温箱に密封した近赤外大気光イメージャを昭和基地の光学観測棟屋上に設置しました。また、2023年2月28日から始まる越冬観測に向けて、観測システムの動作確認および運用試験を行いました。

新しく設置した観測システムが正常に観測動作をすることが確認できたので、64次越冬期間中に、中間圏界面付近の大気重力波の継続的な観測が行われることが期待されます。昭和基地での中間圏界面付近の大気重力波観測は、南極域に展開する大気重力波の国際共同ネットワーク観測ANGWIN(ANtarctic Gravity Wave Instrument Network)の一翼も担っています。国際協力の下、南極域における広域観測を長期間継続することにより、地球大気最上端の大気大循環に対する南極上空の大気重力波の役割を明らかにすることが本観測の狙いです。

新しい近赤外大気光イメージャの概観

※この観測については、下記でも詳しく紹介しています
https://www.nipr.ac.jp/antarctic/science-plan10/kihon-spuas03.html

南極大気精密観測から探る全球大気システム/大型大気レーダーを中心とした観測展開から探る大気大循環変動

本プロジェクトでは、気候変動の主要因の1つである大気大循環(地球規模の大気の流れ)の変動を定量的に把握・理解することを主目的としています。

63次越冬、64次夏では、南極昭和基地大型大気レーダー(PANSYレーダー)をはじめとする各種電波・光学観測を継続し、いずれも高精度な連続データを取得することに成功しました。63次夏期間に更新した近赤外大気光イメージャについても、極夜期の大気光データを順調に取得しました。

また、ミリ波分光計は、62次越冬期間中の突発停電時に2台のマイクロ波発振器が故障し、4輝線の同時観測ができなくなっていましたが、63次越冬前半に受信機と中間周波数系、分光計の更新、光学系の調整など、ほぼ全ての構成要素の更新を行い、230GHz帯のCOと250GHz帯のO3、NOx,HOxのスペクトルの同時観測が可能となりました。

その他、昭和基地では、上部対流圏・下部成層圏の水蒸気量を高精度で測定可能な水蒸気ゾンデによる観測を54次隊より実施しています。しかし、モントリオール議定書のキガリ改正に伴い、水蒸気ゾンデの冷媒として使用している代替フロン(CHF3)が今後使用できなくなりました。そこで、冷媒を使用しない水蒸気ゾンデを新たに導入し、昭和基地での観測に成功しました。

各種電波・光学観測により、幅広い高度領域における風速、温度、微量成分等のデータを取得し、南極域における大気上下結合のデータベースが構築されつつあります。また、PANSYレーダーや近赤外大気光イメージャをはじめとする電波・光学観測のデータが蓄積され、南極における大気波動現象の実態解明も進むと期待されます。今後は、これらの観測を継続し、より長期的な気候変動の研究を進めるとともに、65次夏・67次越冬に実施するスーパープレッシャー気球観測とPANSYレーダーを連携させた大気重力波研究を進めていきます。

PANSYレーダー

更新後のミリ波分光計

※この観測については、下記でも詳しく紹介しています
https://www.nipr.ac.jp/antarctic/science-plan9/juuten1.html
https://www.nipr.ac.jp/antarctic/science-plan10/juuten06.html

東南極氷床変動の復元と急激な氷床融解メカニズムの解明

64次先遣隊として、航空機を利用することで「しらせ」の観測隊本隊より早期に南極入りし、ラングホブデやオングル島周辺で、夏季の融解前の安定した海氷・湖氷上から海底・湖底堆積物の掘削と水中ロボット(ROV)を使った地形探査を行いました。また、「しらせ」到着後は新たに導入したボーリングマシンを用いた陸上堆積物の掘削と、主に白瀬氷河沿いでの氷河地形調査と岩石試料採取を実施しました。

このプロジェクトでは、約12-13万年前にあった温暖期(最終間氷期)以降の南極氷床変動の復元と変動メカニズムの解明を目的としています。64次隊では、これまでに得られていなかった貴重な陸上・湖沼・浅海の堆積物や岩石試料が採取できました。

今回採取した試料を日本に持ち帰り、実験室での分析やデータの解析を行うことで、過去の南極氷床の変動を詳細に復元し、南極氷床の急激かつ大規模に融解するメカニズムの解明を進めます。本研究の進展により、近未来の南極氷床融解や、海水準上昇予測の高精度化につながることが期待されます。

64次での観測は、厳しい環境下での長期野外調査という困難を伴うものでしたが、雪上車やスノーモービル、ヘリコプターなど様々な移動手段の提供を受け、多くの協力を得て実現できました。今後は、調査域を深海にも広げて研究を進めていきます。

ルンドボークスヘッタ丸湾大池での堆積物掘削

海氷上を雪上車で進む

完全に結氷した西オングル大池

水中ロボット(ROV)を使った海底地形探査

ボーリングマシンを使った陸上堆積物の掘削風景

※この観測については、下記でも詳しく紹介しています
https://www.nipr.ac.jp/antarctic/science-plan10/juuten02.html

極冠域から探る宇宙環境変動と地球大気への影響

地球環境が、どのように宇宙にオープンなシステムかを理解し、予測するために、これまで地球上で空白域となってきた極冠域に新たにオーロラ撮像ネットワーク観測を展開することが、本プロジェクトの重要なカギです。また、世界唯一となるミューオン計と中性子計を統合した宇宙線の精密測定を可能とするため、昭和基地の宇宙線観測のフルシステム化を目指します。

昭和基地において、既存の観測器(高速オーロラカメラ、ミリ波分光計、宇宙線、スペクトルリオメータ)による観測を維持・改良・継続しました。その結果、観測データを順調に蓄積しています。特に、宇宙線の観測データを用いた研究論文を2編発表し、プレスリリースも行いました。また、新たに昭和基地に持ち込んだ極冠オーロラカメラ4台を設置するとともに、海外基地におけるオーロラ観測も順調に維持・継続しています。このほか64次夏期間では、ヘリコプターオペレーションを実施し、無人磁力計システムのデータ回収とメンテナンスを行いました。

さまざまな観測器はそれぞれ固有のメンテナンスを必要とするため、昭和基地と周辺における総合観測データを維持するためには、高度なスキルやノウハウが要求されます。それらをクリアし良質な総合観測データを蓄積し続けることで、今後の良い研究につながることが期待されます。新型の極冠カメラについては、データ取得から公開までのフローを確立・整備することが、同システムの海外基地への新たな多地点展開に直結していくと期待されています。

昭和基地のドーム内に設置した極冠オーロラカメラの外観

※この観測については、下記でも詳しく紹介しています
https://www.nipr.ac.jp/antarctic/science-plan10/juuten07.html

全球生物地球化学的環境における東南極域エアロゾルの変動

本プロジェクトでは、日本―昭和基地間の海洋上の大気中微粒子や、雲の大きさ、量、成分、光の吸収、散乱の性質について、「しらせ」に設置した観測装置によって観測しています。これらの観測データから、インド洋上での微粒子と雲の関係や温暖化への影響を検討しています。

64次隊では、清浄大気観測小屋に設置したマルチアングル吸光光度計(MAAP)、偏光OPCにより、南極沿岸域における炭素質エアロゾル、鉱物エアロゾル、海塩エアロゾル、液滴状微小エアロゾルの連続観測を行いました。また、清浄大気観測小屋および観測棟において、エアロゾルの化学組成・同位体組成の分析のための3種類のエアロゾルサンプリングを通年で実施しました。回収したサンプルは冷凍保管して持ち帰り、国内での分析を予定しています。

そのほか、昭和基地から4kgゴム気球でエアロゾル計数装置、エアロゾルサンプラー、気象ゾンデを搭載した小型無人航空機を高度 30km まで飛揚し、自律飛行により帰還させ、成層圏エアロゾルの鉛直分布を観測するとともに、サンプル回収を実施しました。回収したサンプルは常温保管の上で持ち帰り、国内で分析します。

2段粒径別エアロゾルサンプリング、Be7分析用サンプリングは3年間、ナノ分級サンプリングは1年間通年で実施しており、エアロゾル組成のナノ領域からの粒径別濃度、成層圏起源エアロゾルの地上への輸送の寄与の季節変化パターンが明らかになります。また、無人航空機観測による晩春/初夏の高度27kmまでの成層圏エアロゾルサンプルから、2022年1月に噴火したトンガ火山噴火起源物質の南極への輸送とその粒子の状態も明らかになります。

中央奥の旧放球棟でヘリウムガスを充填した4kg大型ゴム気球の立ち上げの様子

ゴム気球で宙に浮いた10kgの無人航空機Phoenix-S

雪に覆われた海氷上にパラシュートで着陸、回収された無人航空機Phoenix-S

※この観測については、下記でも詳しく紹介しています
https://www.nipr.ac.jp/antarctic/science-plan9/ippan-glaciology03.html

気象観測/東南極の大気・氷床表面に現れる温暖化の影響の検出とメカニズムの解明

世界気象機関(WMO:World Meteorological Organization)は、急激な環境変化が起きている南極・北極の気候と気象、海氷状態の予測を向上させるため、2013年から10年計画で極域の気象・海洋の観測や研究を行う極域予測プロジェクトを進めています。

2022年は、極域気象予報プロジェクト(Polar Prediction Project:PPP)において計画された、第2回極域予測年(Year Of Polar Prediction in the Southern Hemisphere:YOPP-SH)でした。2022年の強化観測期間には、冬季に発生する顕著な降水現象(図1)を捉えることを目的とし、南極の各国の観測基地を含め、南半球高緯度の観測所や船舶から、高層気象ゾンデが増発されました(図2)。

昭和基地では、定常観測の「気象観測」と一般研究観測の「東南極の大気・氷床表面に現れる温暖化の影響の検出とメカニズムの解明」の共同観測として、ブリザードの期間を含め、増発により最大で1日4回の高層気象観測を実施しました(図3)。

地球温暖化による南極氷床の質量減少、および海水準上昇に関するより確実な予測が求められています。年間に数回しか発生しない顕著な降水現象が、南極氷床の質量の維持に大きく寄与することが分かってきました。今回の強化観測は、このような現象の把握と予測能力の精度を高めます。その結果として、南極氷床の質量変動に関する、より精度の高い将来予測が可能になります。

図1:昭和基地で降水時の衛星画像(2022年8月30日)

図2:高層気象ゾンデの強化観測に参加した観測所 YOPP-SH Radiosonde Sites(Winter TOPs)

図3:ブリザード時のゾンデ放球

※この観測については、下記でも詳しく紹介しています
https://www.nipr.ac.jp/antarctic/science-plan10/kihon-teijou02.html
https://www.nipr.ac.jp/antarctic/science-plan9/ippan-glaciology04.html

氷床中の宇宙線生成核種を使った太陽粒子嵐の定量評価

本プロジェクトでは、氷床コアに記録されているベリリウムの濃度から過去に発生した太陽粒子嵐の変化を明らかにするための基盤研究に取り組んでいます。

64次隊では、南極大陸上で氷コアの掘削をおこないました。掘削は、沿岸から50km内陸に入ったH15地点(実施期間:2022年12月22日から31日)、さらに50km内陸に入ったH128地点(2023年1月4日から15日)の2地点で実施し、近代以降に堆積した氷試料を、浅層掘削ドリルを使って採取しました。採取した氷試料の長さは、年間涵養量が多いH15地点では35m、涵養量が少ないH128地点では26mです。また、掘削ドリルを使った試料採取が困難であった表層付近の試料採取を行うため、深さ3mの積雪ピット観測も実施しました。

太陽活動に変化が起こると、地球大気の上層で生成されるベリリウムが増加します。氷コアに記録されているベリリウム濃度の時間変化を詳細に解析することで、太陽活動の監視が始まった1950年以前の太陽の変動が明らかになると期待されます。

浅層掘削の様子

積雪断面観測の様子

※この観測については、下記でも詳しく紹介しています
https://www.nipr.ac.jp/antarctic/science-plan10/ippan02.html

海氷下における魚類の行動・生態の解明

昭和基地周辺の海は、1年中海氷に覆われています。低温で海水温の変化が少ない海域における魚類の生態について、測位型超音波バイオテレメトリーシステム(魚に取り付ける超小型超音波発信器[ピンガー]と超音波受信機)と採集に基づく食性・繁殖状況の評価(胃内容物・生殖腺の確認など)、魚類の行動・資源量と海洋環境の関係性の解明が、本プロジェクトの目的です。

64次隊では、2022年12月24日から2023年2月5日の間に、以下の海氷下における魚類の調査を実施しました。

①魚類の超音波テレメトリ:海氷を掘削し、受信機を設置しました。掘削した穴から釣獲したショウワギス3尾とボウズハゲギス3尾に超音波発信機を装着し、海中へ放流しました。ショウワギスとボウズハゲギスが異なる深度を利用していることが示唆されました。

②生物採集:釣り、NORPACネット(330μmメッシュ)、エクマンバージ型採泥器を用いて魚類、プランクトン、ベントスの採集を実施しました。ショウワギス約150尾,ボウズハゲギス約40尾,他3種7尾を採集しました。

③環境DNAと海洋環境計測:北の浦の5定点(水深30-87m)で6Lバンドーン式採水器を用いて9回の採水調査を実施しました。また、海面から海底まで0.1m毎に水温、塩分、溶存酸素濃度、クロロフィル、濁度を計測しました。

今回の観測により、海氷における掘削や音響測位、生物採集、採水等に関する技術が確立できました。今後、魚類の超音波テレメトリ、生物採集、環境DNAと海洋環境計測を長期間連続的に実施します。これらの調査によって、海氷下の魚類と海洋環境の関連を多角的に統合解析することが期待されます。

発信機を装着したショウワギス。背びれ付近に個体識別用のタグをつけた

採泥器によって採集したベントス

採水の様子

※この観測については、下記でも詳しく紹介しています
https://www.nipr.ac.jp/antarctic/science-plan10/ippan03.html

南極観測用ペネトレータの開発と白瀬氷河および周辺域での集中観測

月惑星探査技術の開発として、投下貫入型の観測システム「ペネトレータ」の開発を長年行ってきました。探査機が月惑星を周回している軌道から分離させ、ジェット機に相当する速度で地面に貫入させる、この技術を南極に応用することで、南極域において場所を選ばず、そして経済的に観測システムを設置する技術を開発することが本研究の目的です。
64次隊では、南極ペネトレータ開発の第一段階として、観測技術と投下技術の基礎開発を目的とした活動を行ないました。観測技術としては、2022年12月24日から2023年2月11日まで昭和基地周辺およびS16、H128などで通信試験を実施し、450回を超える衛星通信に成功しました。さらに、地震計、インフラサウンドセンサーを搭載した機体で2023年1月2日から2月11日に海氷上での観測データを収集しました。

投下技術としては、ドローンによる投下技術確立のために2022年12月23日から27日にかけて昭和基地周辺にて運用試験を実施したところ不具合が発生したために、本格的な投下試験は遂行できませんでした。そのほか、本課題での科学観測地点を決定するために、2022年12月26日に白瀬氷河、ラングホブデ氷河などを上空から観察調査し、投下可能地点が広い領域で存在することを確認しました。

今回の観測では、開発したペネトレータが、南極域の環境下で実用性があることが実証されました。また、科学観測目標としている氷河地域にも投下候補地点が見出されたことから、本格的な観測運用にむけた基礎的な技術は概ね確立できました。ドローン投下技術については、原因究明および改修を行い、次期観測活動で成功させたいと考えています。

通信試験実施中のペネトレータ機体

地震・インフラサウンド観測ペネトレータのセットアップの様子

ドローン飛行テストの様子

※この観測については、下記でも詳しく紹介しています
https://www.nipr.ac.jp/antarctic/science-plan10/houga02.html

設営(解体工事・新夏期隊員宿舎工事)

64次夏の解体工事として、地学棟、旧放球棟、旧水素ガス発生機室の解体を行いました。また、建設工事として、新夏期隊員宿舎最初の工事である均しコンクリートの打設を行いました。

新夏期隊員宿舎は、今回の均しコンクリート打設に引き続き、今後65次で1階鉄骨・基礎コンクリート工事、66次で2階木造工事、67次で3階木造工事を行う計画です。

64次の新夏期隊員宿舎建設で行った均しコンクリートの様子

地学棟解体前(63次夏)

地学棟解体後(64次夏)

旧放球棟解体前(61次夏)

旧放球棟解体後(64次夏)

※この観測については、下記でも詳しく紹介しています
https://www.nipr.ac.jp/antarctic/jarestations/

ローカル5G(LTE)実証実験

2022年1月に、昭和基地のスマート化を目指した産学連携共同研究として、ローカル5Gを活用した移動無線通信システムの実証実験を開始しました。

北の浦を中心とする海氷上において、ローカル5Gの特徴である広帯域低遅延の回線を活かした映像中継や、基地設備の遠隔監視を実施し、隊員の安全な活動に資するとともに、作業負担の軽減をはかるための応用に向けた検討を行いました。また、ローカル5Gで利用する4.8GHz帯電波が、昭和基地での観測に与える影響も評価しました。

この実証実験は、国立極地研究所とNECネッツエスアイ株式会社との共同研究として実施されました。

実証実験に使用する携帯端末は、ローカル5Gネットワークにより、屋外からの映像伝送をはじめとして、隊員間の情報通信端末として利用することができます。さらに昭和基地ネットワークおよび衛星通信回線を介してインターネットに接続することで、国内からの遠隔観測支援など、さまざまなサービスを利用することができるようになる予定です。

※この観測については、下記でも詳しく紹介しています
https://www.nipr.ac.jp/info/notice/20220225.html

8K映像伝送実証実験

2022年11月11日、昭和基地と国立極地研究所立川キャンパスを結ぶ衛星通信回線(最大7Mbps)を用い、昭和基地から初めて8K映像のリアルタイム伝送の実証実験に成功しました。KDDI総合研究所が開発した遠隔作業支援システムを用いることで、狭帯域なネットワークにおいても、スマートフォンだけで手軽かつ安定的に8K映像の伝送が可能となります。

本実証実験は、株式会社KDDI総合研究所と国立極地研究所との共同研究として実施されました。

昭和基地と国内を結ぶ衛星通信回線は、国内研究拠点への現地観測データの伝送や、隊員の遠隔医療支援や家族とのWeb会議といった生活環境の向上、昭和基地の様子を伝える広報イベントなどに、幅広く活用されています。映像品質を従来のHDTVから8Kへ大幅に向上させることで、昭和基地の自然や隊員を取り巻く環境を高い臨場感で伝えられるため、体験価値・教育的価値を高めた形でのコンテンツ提供が可能となります。

本実証実験で得た知見を基に、今後、さまざまな利用シーンにおいて、狭帯域での8K映像のリアルタイム伝送の有用性検証や画質、遅延、安定性などの課題の抽出と改善を行い、2023年度の実用化(昭和基地-国内間での映像伝送の実運用での利用および8K映像の商用品質化)を目指します。

※この観測については、下記でも詳しく紹介しています
https://www.nipr.ac.jp/info/notice/20221215.html

情報発信・教員南極派遣

情報発信

64次夏隊では、国立極地研究所の連携機関から初めて専任の広報隊員を派遣し、夏期間の広報活動を充実させることができました。その結果、夏期間の観測隊ブログ掲載数は昨年、一昨年と比較して約2倍の94件(2023年3月22日時点)となりました。また、夏期間にYouTubeライブ「夏の昭和基地へようこそ!」を配信し、夏期間の活動を紹介するとともに、視聴者からのコメントに応えることで双方向のやり取りが実現しました。

また、63次越冬隊には新聞記者、64次夏隊にはテレビの報道関係者が同行し、テレビの情報番組や報道番組、新聞紙面等で観測隊の活動が紹介されました。

さらに、昭和基地と国内を衛星回線で繋いだイベントとして、63次越冬期間に国内の小・中・高校生に向けた南極教室を12件実施し、計3,300人以上の児童・生徒が参加しました。

 YouTubeライブ「夏の昭和基地へようこそ!」配信時の様子

教員南極派遣

64次夏隊では、教員南極派遣プログラムで2名の教員を派遣し、3回の南極授業を行いました。南極授業を受けた児童・生徒からは、「南極授業をやる前までは、南極のことをなにも知らなかったけれど、この授業のおかげでいっぱい知ることができて良かったです」などの感想が寄せられました。

こうした活動においては、即時性のある情報発信や、観測隊と個人が直接触れ合える場として、SNSの活用が有効に働きました。また、SNSだけでは情報が届きにくい教育現場などに南極観測を知ってもらうためにも、越冬隊員による南極教室の開催や、現職教員を現地に派遣することが今後も重要となります。

「南極教室」の様子(63次越冬隊)

「南極授業」の様子(64次夏隊)

※この観測については、下記でも詳しく紹介しています
https://www.nipr.ac.jp/antarctic/outreach/

ドームふじ周辺での活動

東南極域における酸素同位体比の地理的分布とその形成要因の解明

南極氷床域では、堆積した積雪の酸素同位体比を使って過去から現在までの気温推定が行われています。この気温復元は、「南極氷床域における地上気温が積雪の酸素同位体比と正の相関関係を示す」という経験則に基づいていますが、これを合理的に説明できる物理メカニズムの理解はあまり進んでいません。本プロジェクトでは、極域への水蒸気輸送量の低下が酸素同位体比の地理的特徴を作り出していると仮説を立て、その実証を通じて、経験則が成り立つ背景を明らかにします。

ドームふじ基地周辺にもたらされる降雪には、沿岸域から内陸域まで輸送されてきた水蒸気がもたらす降雪と、放射冷却によって上空の水蒸気が凍って降雪するダイヤモンドダスト(細氷)の2種類があります。この2種類の降雪を別々に自動採取できる降雪採取装置を名古屋大学で開発し、ドームふじ基地に2022年1月に設置しました。この装置は、自動で月毎に2種類の降雪採取を行います。2022年12月6日に観測を終了し、降雪装置と採取試料の回収を行いました。

ドームふじ基地周辺では、無人となる厳冬期の化学データを入手することができません。また、ドームふじ基地のような極限環境で動作する降雪採取装置は存在しません。今回製作した装置が実用化すれば、通年で試料採取が可能となり、物質循環研究の進展に大きく寄与することが期待されます。

試料採取の様子

通年観測を終えた後の自動降雪採取装置

※この観測については、下記でも詳しく紹介しています
https://www.nipr.ac.jp/antarctic/science-plan9/houga-glaciology.html

最古級のアイスコア取得を目指す第3期ドームふじ深層掘削

南極大陸を厚く覆っている氷は、降り積もった雪が押し固められてできているため、過去の環境や空気が連続的に保存されています。過去の南極環境変動を解明することは、南極地域観測における重要課題の一つです。

本プロジェクトでは、東南極氷床の頂上の一つであるドームふじ近傍において、100万年以上まで連続して遡って環境変動を解明可能なアイスコアを採取することを最大の目的としています。

64次では、ドームふじまで片道約1,000kmの内陸旅行を実施しました。64次先遣隊は、2022年11月1日に航空機にて昭和基地に到着し、63次越冬隊メンバーと合流、準備の後、19日に大陸沿岸の出発点からドームふじに向けて出発しました。

内陸ルート上において、雪尺による表面質量収支観測や、雪試料採取、マイクロ波放射計を用いた氷床表面観測、精密GNSS測量による氷床表面高度・氷床流動速度観測等を実施し、いずれも良好にデータや試料を得ることができました。

また、現地の活動と並行し、国内において第3期ドームふじ氷床深層掘削地点の最終選定活動を実施しました。第IX期計画における3度の現地調査結果と、氷床流動モデルによる多数の数値実験等を組み合わせ、最古級の氷が安定して存在すると期待される地点を絞り込み、ドームふじ基地から南南西約5kmの地点(南緯77度21分40秒、東経39度38分38秒)と定めました。この地点に構える観測拠点は「ドームふじ観測拠点II(以下、拠点II)」と名付けられ、64次と65次の夏期2シーズンにかけて建設されます。

この決定を受け、内陸旅行隊は12月9日から17日にかけて内陸居住モジュールを建設しました(完成後は隊員の食堂として使用)。さらに12月18日から2023年1月13日にかけて、拠点IIにおいて、3m深の掘削場トレンチ掘りやドリルウインチ設置、コントロール室設置、ドリルピットの一部掘削(3mまで)等の新掘削場の建設を実施しました。

また、新掘削場の建設と並行して、12月16日から27日に浅層アイスコア掘削を実施し、125m深の雪氷コアを取得しました。その後、1月17日に帰路出発し、ルート上の各種観測を行いました。

今回の観測では、掘削地点の選定が終了し、ドームふじ観測拠点IIの建設がスタートしました。今後の建設継続と、深層掘削準備につながる成果となりました。浅層掘削では、120m深まで垂直な縦孔の掘削に成功し、深層掘削のパイロット孔を垂直に掘削するための習熟という今回の浅層掘削の目的を果たすことができました。

また、ルート上や拠点II等で繰り返し実施した雪尺観測や氷床表面高度、流動速度観測等は、南極氷床変動の実態把握に寄与します。

ドームふじ観測拠点IIの全景。手前にあるオレンジ色の高屋根の下に掘削場が建設されました

(左)南極大陸図 (右)ドームふじ付近詳細図。★がドームふじ観測拠点II

ドームふじ観測拠点IIの看板から拠点全体を望む

ドームふじ観測拠点IIにおける浅層掘削の様子

※この観測については、下記でも詳しく紹介しています
https://www.nipr.ac.jp/antarctic/science-plan10/juuten01.html

ドームふじ観測拠点II設営工事

2022年12月8日から2023年1月16日までの40日間、ドームふじ観測拠点IIにおいて、内陸居住モジュール建設と掘削場建設を行いました。

内陸居住モジュール建設工事は、12月9日から12月16日の8日間で、雪面整地と、モジュールが載った20フィート貨物橇2台の位置調整を行いました。また、2つのモジュール間に床・壁・天井を施工し、内装工事、電気工事を行いました。

掘削場建設工事は、12月17日から1月13日の25日間で、掘削場トレンチ施工、観測用ウインチ設置、床工事、コントロール室工事、屋根工事、階段室工事、電気工事、深層掘削ドリル用ピットの深さ3m(完成時深さ10m)までの施工を行いました。

掘削場建設中の様子

内陸居住モジュール屋根工事

掘削場内に観測用ウインチを設置している様子

建設工事終了時のドームふじ観測拠点II

※この観測については、下記でも詳しく紹介しています
https://www.nipr.ac.jp/antarctic/jarestations/

「しらせ」船上での活動

東南極の氷床-海氷-海洋相互作用と物質循環の実態解明①

本プロジェクトでは、氷床―海氷―海洋システム変化の最前線である東南極において、「海洋における暖水輸送過程」「氷床融解過程と海洋への淡水供給」「海氷の形成量変動・形成過程・物質の取り込み」「海氷の流動・融解による物質輸送」「氷床―海氷―海洋システムと大気変動とのかかわり」をターゲットとする統合研究観測を展開し、氷床―海氷―海洋システムの実態を解明し、海水準の将来予測に貢献します。

海の中の構造を理解するためには、船で直接訪れてその場で海水を測定・採取したり、海底地形情報を収集する必要があります。また、海氷域においては広範囲の情報を得るため、停船して測器を投入するだけでなく、投下式の測器を航行中に展開します。64次隊では、様々な手法を取り入れて、リュツォ・ホルム湾における海洋の水温や塩分、栄養塩の濃度、未探査領域の海底地形を調べました。加えて、物質の輸送にかかわる海氷そのもののサンプリングも実施しました。

今回取得した海水を持ち帰って国内で精密に分析することで、海水中にある炭酸成分の量など、さまざまな海水の特徴があきらかになることと期待されます。また、海洋によってどの程度の量の棚氷を融かしうる熱が輸送されているのか、輸送のプロセスとともに評価します。さらに、海氷の種類やサンプリングした地域ごとにどのような物質が含まれ、海洋の物質循環に貢献しているのかについて明らかにします。

新たに判明した海底地形情報によって、海水輸送プロセスの理解、棚氷消失過程や暖水輸送過程を行う数値シミュレーションの高精度化が期待されます。

新たに得られた海底地形図

氷海へのAUV投入風景

※この観測については、下記でも詳しく紹介しています
https://www.nipr.ac.jp/antarctic/science-plan10/juuten04.html

南大洋上の雲形成メカニズムの解明と大気循環の予測可能性の向上

本プロジェクトでは、南極観測船「しらせ」による南大洋特有の雲の生成過程の実態を解明する観測研究とともに、昭和基地での大型大気レーダー「PANSYレーダー」のデータを応用した予測可能性研究を実施します。

64次では、南極域の雲の形成環境を、「しらせ」船上に設置した多様な測器で観測しました。マイクロ波放射計と雲底高度計で、雲が存在する高度・気温・相状態(水雲か氷雲か)を連続的に把握するとともに、雲粒子センサーゾンデで雲粒子の個数や相状態を観測しました。また、昭和基地接岸中には100回以上に及ぶドローンの気象観測により、高度1000mまでの気象要素とエアロゾル数濃度の鉛直分布を取得しました。船上では、気象・放射量の測定とともに、エアロゾルの数濃度の計測およびフィルター捕集を行いました。エアロゾルの供給源である海面の状態を計測するため、海面乱流フラックスの連続観測および波浪ブイの投入を行いました。リュツォ・ホルム湾やトッテン氷河沖では、海洋中の微粒子を大気中のエアロゾルと照合するため、CTD・バケツ・表層ポンプによる海水試料をろ過しました。

今回取得されたデータから、雲を形成するエアロゾルの特性や水雲・氷雲の存在割合などを調べ、南極域特有の雲の形成環境を把握します。そして、それらが気候モデル等で表現されているかを検証し、将来気候予測の精度向上に貢献します。

気象測器を取り付けたドローンで高度1000mまで観測

雲粒子センサーゾンデで上空の雲の粒子数や大きさを計測

しらせ船上でエアロゾルの捕集を実施

船上の観測装置は雪・霜・しぶき等が付着していないか毎日確認

※この観測については、下記でも詳しく紹介しています
https://www.nipr.ac.jp/antarctic/science-plan10/juuten05.html

氷縁域・流氷帯・定着氷の変動機構解明と「しらせ」航路選択

昭和基地のあるリュツォ・ホルム湾奥では、数十年に一度、陸地に張り付いた海氷が崩壊して海に流れ出し、やがてゆっくりと成長するということを繰り返すことがわかってきました。その海氷の崩壊の原因の一つは、南半球の強い風で起こされたうねりが海氷に覆われた海に侵入し、厚い氷を揺さぶることと考えられます。この研究では、そのような海氷下を伝わる波浪の計測を行います。また、過去の「しらせ」の航行記録から、陸地にはりついた海氷の消長過程と航行の難しさとの関係を明らかにすることで、適切な航路選択による昭和基地への到達時間の短縮可能性について検討します。

64次夏隊では、下記の観測を実施しました。

船上観測

1. EM(電磁誘導式氷厚計)による氷厚計測:2022年12月15日~24日、2023年1月24日~2月10日
2. ステレオカメラによる波浪海氷計測:2022年12月1日~2023年3月17日
3. 飛沫計によるしぶき計測:2022年12月1日~19日、2023年2月15日~3月17日
4. EMキャリブレーション・バリデーション:2022年12月31日
5. 「しらせ」船体運動などの性能評価モニタリング計測:横須賀出航時から復路フリーマントルまで実施
6. その他、海氷モニタリング動画撮影、ドローン空撮などを氷海にて実施

氷上・海洋観測

1. 定着氷上に15基、流氷上に8基の波浪ブイを設置
2. 10基の漂流型波浪ブイを復路流氷帯で投入
3. 定着氷上に設置したブイのうち13基について観測隊ヘリコプターで再訪し、近傍の氷厚を計測

今回の観測により、リュツォ・ホルム湾定着氷および流氷の動きと、定着氷崩壊につながるうねりの侵入(氷縁・流氷帯・定着氷)の計測が期待されます。また、今後「しらせ」氷海航行性能と氷況との関係を明らかにします。特に、流氷帯でのビセットについて、その原因と対応に関する知見が得られることが期待されます。

今後は、継続して定着氷の成長と動きをモニタリングし、長期的な予測につなげます。また、計測データのリアルタイムでの可視化による「しらせ」航行支援を目指します。

リュツォ・ホルム湾に展開した波浪ブイの初期位置と3月はじめまでのブイの軌跡

3つの高波高イベントにおける飛沫計の1秒間あたりの飛沫量[ml]の変化と相対風速の変化

船EMによる全氷厚(雪厚+海氷厚)の測定結果.上図:流氷帯(68.0S~68.6S).下図:定着氷帯(68.6S~69.1S)

※この観測については、下記でも詳しく紹介しています
https://www.nipr.ac.jp/antarctic/science-plan10/ippan01.html

船上観測とリモートセンシングを組み合わせた南大洋への鉱物粒子負荷量推定

本プロジェクトでは、日本が運用している気候変動観測衛星「しきさい」のデータと、南極観測船「しらせ」で得られたデータを結び合わせて、南大洋上空に浮遊する鉱物粒子の全体像を明らかにすることを目指しています。

「しらせ」の露天甲板(屋外の甲板)に船舶用オリオールメータを設置し、太陽光や空の明るさの測定を実施しました。また、「しらせ」の観測室に偏光光散乱式粒子計測器(偏光OPC)を設置し、屋外から空気を引き込み、その中に含まれている微粒子(大気エアロゾル粒子)の成分ごとの量を測定しました。

いずれの機器も自動的に測定を行います。東京出港後にすぐに観測を開始し、他国のEEZ(排他的経済水域)を除き、観測を継続しました。途中、機器にトラブルが発生しましたが、無事に復旧させることができました。測定データは、「しらせ」が帰国した後に解析されます。

今回の観測では、偏光OPCのデータにより、日本から南極海にわたる海面付近の大気エアロゾル粒子の量を明らかにします。特に偏光OPCでは、本研究課題で対象としている鉱物粒子の量を、他の粒子と区別して測ることができます。また、船舶用オリオールメータで得られた太陽光や空の明るさを解析することで、海面から遥か上空の成層圏にまで存在する大気エアロゾル粒子の全体の量や性質を調べることができます。さらには、気候変動観測衛星「しきさい」のデータも活用し、鉱物粒子が南大洋の上空にどれくらい存在しているのかを明らかにしていきます。

船舶用オリオールメータによる太陽光や空の明るさの観測の様子

※この観測については、下記でも詳しく紹介しています
https://www.nipr.ac.jp/antarctic/science-plan10/houga01.html

南東インド洋海嶺にみる海底拡大様式と地球内部ダイナミクス

本プロジェクトでは、「しらせ」航路上に広がる海底大山脈(中央海嶺)である「南東インド洋海嶺」を対象に、船上地球物理観測に基づく海底マッピングを実施します。南東インド洋海嶺の海底構造に直交する方向に測線を設定し、この航走測線上における船上地磁気3成分と、海底地形、海底地層、船上重力を観測します。

南極大陸までの往復路に通過する南東インド洋海嶺域において、船上3成分磁力計、船上重力計、マルチビーム音響測深機、海底地層探査装置を連続稼働させ、航路上の船上地球物理データを取得しました。往路では、2022年12月2日から12月7日の期間で東経110度ライン沿いの東側未探査域において、復路では2023年3月14日から3月16日の期間で南緯47度~53度の南北測線3本において地球物理マッピング観測を実施しました。海中音速度構造については、南北1度間隔のXCTD観測で得たデータを適用しました。

その結果、機器不良に伴うマルチビーム音響測深機データの一部欠測を除いて、磁場3成分・船上重力・海底地形・地層探査データを海洋底拡大軸および海底断裂帯の近傍において取得することができました。なお、一部の海域では荒天や氷山への対応のため測線を離脱して航走したため、計画測線から逸れた範囲での観測となりました。

今回の観測では、南東インド洋海嶺のオーストラリア–南極不連続から西側に存在する海洋地殻–マントル構造の遷移帯の未探査領域において、船上地磁気3成分、船上重力、マルチビーム音響測深記録、地層探査装置の記録を長基線にわたって世界で初めて取得することができました。今後のデータ解析により、海洋底の構造の時空間変動と地球内部ダイナミクスの関連を明らかにする予定です。

※この観測については、下記でも詳しく紹介しています
https://www.nipr.ac.jp/antarctic/science-plan10/houga03.html

海鷹丸での活動

基本観測(海洋物理・化学)

本プロジェクトでは、日本が継続して担ってきた観測頻度の少ない東南極(南大洋インド洋区)での観測を継続し、水深3000m以深に及ぶ物理・化学環境の動態を監視するとともに、海氷縁付近での南極底層水の監視の強化を進め、国際的な枠組である南極研究科学委員会(SCAR:Scientific Committee on Antarctic Research)および海洋研究科学委員会(SCOR:Scientific Committee on Oceanic Research)の傘下にある南大洋観測システム(SOOS:Southern Ocean Observing System)との連携等により、地球環境変動への影響評価を行います。

東京海洋大学練習船「海鷹丸」による別働隊により、観測頻度の少ない東南極(南大洋インド洋区)において、氷縁海域を含む南極海の海洋物理・化学データを取得し、過去50年近く担ってきた海洋環境の長期変動調査について、さらに精度を高め、かつ、より深海へと挑んだ観測を実施しました。本課題はコロナ禍により2年間中断していましたが、3年ぶりに再開となりました。

東経110度ライン上の南緯40度、45度、50度、55度、60度、61度、63度、64度、65度(海氷縁域)の9測点において、CTD-採水システム観測を実施しました。観測は海面から海底直上までの水温、塩分、溶存酸素の鉛直分布を得ると同時に、ニスキンボトルによる採水を行い、塩分、溶存酸素、栄養塩の分析および各種センサー検定用の試水を取得しました。

精度の高い水温・塩分測定や海水の化学分析により、水深3000m以深に及ぶ物理・化学環境の動態、および海洋大循環の駆動源となる南極底層水の監視を強化することが出来ます。また、本事業で取得した南極海の物理・化学データは国内外の関係機関の利用に供することで、地球環境変動への影響評価に貢献します。この観測は今後も継続し、長期変動の監視と抽出に相応しいデータを蓄積していきます。

CTD-採水システム観測風景

海水の化学分析のための採水風景

※この観測については、下記でも詳しく紹介しています
https://www.nipr.ac.jp/antarctic/science-plan10/kihon-teijou03.html

東南極の氷床-海氷-海洋相互作用と物質循環の実態解明②

本プロジェクトでは、氷床―海氷―海洋システム変化の最前線である東南極において、「海洋における暖水輸送過程」「氷床融解過程と海洋への淡水供給」「海氷の形成量変動・形成過程・物質の取り込み」「海氷の流動・融解による物質輸送」「氷床―海氷―海洋システムと大気変動とのかかわり」をターゲットとする統合研究観測を展開し、氷床―海氷―海洋システムの実態を解明し、海水準の将来予測に貢献します。

南極氷床を融解させる暖水の空間分布、流量などを理解するためには、船で直接訪れてその場で海水を測定・採取する必要があります。また、海氷域においては広範囲の情報を得るため、停船して測器を投入するだけでなく、投下式の測器を航行中に展開します。64次隊では、様々な手法を取り入れて、オーストラリア-南極海盆における海洋の水温や塩分、栄養塩の濃度を調べ、さらに物質の輸送にかかわる海氷そのもののサンプリングも実施しました。また長期観測を行うための係留系の設置を行いました。

今回の観測データを国内で精密に分析することで、海洋の熱量や炭酸成分・栄養塩・動植物プランクトンの空間分布など、南極海の特徴があきらかになることが期待されます。また、棚氷を融かしうる熱がどのようにどれだけ南極に向かって輸送されているのか、その輸送のプロセスとともに評価します。さらに、海氷の種類やサンプリングした地域ごとにどのような物質が含まれ、海洋の物質循環に貢献しているのかについて明らかにします。

新たに投入した係留系を次年度回収することで、流量や熱フラックスそのものの時系列を取得し、海洋熱を輸送する海流の変動要因を明らかにし、海水輸送プロセスの理解、棚氷消失過程や暖水輸送過程を行う数値シミュレーションの高精度化に貢献できると考えています。

海鷹丸の航路と流速分布

※この観測については、下記でも詳しく紹介しています
https://www.nipr.ac.jp/antarctic/science-plan10/juuten04.html